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真夜中のラッシュアワー
※甘々
※甘々
※甘々
※続き物です。




からっぽのに浮かんだのは








ピピピピ ピピピピ


いまだ初期設定のままだった携帯電話の着信音が不意に耳元で鳴りだす。

まるで目覚まし時計をとめるかのような仕草で、枕元の携帯に手を伸ばした。

「…………」
意識をぼんやりとさせたまま、携帯を開いて画面を確認すると、そこには"着信あり"の文字。

不思議に着信履歴を覗いてみれば、090から始まって、"138"という数字の入った電話番号からの着信が先ほどのものとして表示されている。

しかも、ワン切り。


――悪質にも程があんだろ。

肩を竦めて溜め息をつくと、やるせない面持ちでスウェットの襟部分に手をかけた。

長年同じものだけを入れて使い続けたクローゼットから、これまたいつも通りの白と黒のコントラストが際立つ、通常ならば仕事着と呼ばれるものをセットで取り出す。

まだ半分頭が寝ている中、おぼつかない手先でシャツのボタンをはめるのに苦労しながらも半ば乱暴に衣服を身に纏った。

普段は首もとでしっかり結んでいるタイも、今はご愛嬌だ。


適当に顔を洗って、いつしか誰かに貰ったブランド物のサングラスをかければ、準備はばっちり。

時計を見れば、あれからまだ5分しか経っていない。

自分の緊急事態への適応力に感動しながらも、近所のことを考慮し、出来るだけ静かに扉を閉めて家を出た。


(…あ、戸締まり確認すんの忘れてた)


静雄は、再びさっき来た道を小走りで戻る。



*****


オートロック、か…。


近頃のこういうちまちましたやつはよくわからない、と、いわれた番号をなんとか入力してロックを解除させる。

開いたドアをくぐって、エレベーターで最上階を目指せばすぐに目的地に着くはずだ。
眠りを妨げられたことはもうとっくに忘れて、頭はただ相手のところへ向かうことばかり。

あいつ、寝てたらぶん殴んぞ。

こき、と一つ指を鳴らして歩くスピードを速める。

やっと扉の前に着いたかと思うと、静雄は横についているインターホンを無視してドアを直接ばんばんと叩いた。


「おい、いんだろーが。さっさと出て来い」


いつも仕事でやってるような声のかけ方。
といってもこうやって客を引っ張り出すのは主に上司の仕事で、静雄自身はただの用心棒であってやったことがない。


扉の奥からパタパタとスリッパが床をする音が聞こえる。
やっとか、と首をならしながらドアが開くのを待っていたそのとき。

「シーズちゃんっ!」

歓喜の声とともに、目の前の扉がバン!と音を立てて勢いよく開かれる。
扉が顔面にクリーンヒットするのを間一髪で逃れた静雄は、相手を注意する間もなく力任せに抱きつかれた。


「遅かったねぇ。待ってたんだよ、ずーっと。最近シズちゃんに会ってなかったからさ、急に会いたくなっちゃって」

そういって臨也は、甘えてきた猫のように顔を押し付けすりつかせる。
世の中では最も危険な情報屋として恐れられた存在が、このような状態になってしまうとは誰が想像するだろう。
静雄自身も突然抱きつかれて玄関先で甘えられるのは初めてだ。


「……なあ、おい、臨也」
「ん〜?なあに、シズちゃん」

「…お前、酒入ってんだろ」
「…はあ?なわけないでしょ、こんな時間に飲むとか、それ完全なやけ酒じゃん」


甘えていたかと思えば、今度は存在自体を拒んでくるような視線で睨んでくる。
だが、腰に回した手はぎゅっと服を掴んだままなのだから、それがまた駄々っ子のようで可愛らしい。

臨也の言うとおり、時刻はただいま草木も眠る丑三つ時である。

こんな時間に熟睡しているであろう人間を無理やり呼び起こして自宅に招くなど、普段の静雄だったら冗談じゃねえと携帯電話を真っ二つにしてしまうところだ。
だが、なぜか最近になってこういうことが多々ある。
突発的な臨也の甘え方に慣れてしまったのか、それとも鳴り止まない携帯電話に嫌気がさしたのか、呼び出しをくらったら最後、臨也の元へ足を運ぶことを余儀なくされたのだ。


「…まあ、とにかく中入るか」

くっついて離れない臨也を引きずって、静雄は扉の奥へと足を踏み入れる。

―なんていうか、すげえ生活臭のする事務所だよな。

無数の書類は棚や引き出しにしっかりと整理されていて、ソファには昨日の着替えが散らばっていたりする。
だらしないんだかきれい好きなんだかよくわからないその部屋に圧倒されつつも、まずは臨也を引き剥がしてベッドに座らせてやる。

「ここで大人しくしてろよ」
「どこいくの?」

「……ホットミルク、作る」
「…やっさしーい。だぁいすきシズちゃん」
「いいから黙ってろ」

座ったまま抱きついてきた臨也を押しのけて、静雄はリビングへ向かう。

"ホットミルク"なんて洒落た名前だが、実際には牛乳をレンジで温めるだけである。
それくらいは自力で作ることの出来る静雄は、他人の冷蔵庫をまるで自分のもののように開閉させた。


*****


「ほらよ」

「おーありがとーシズちゃん」



温める時間に少し悩んでしまったが、なんとか出来上がったホットミルクを臨也に手渡す。

ふーふーと息を吹きかけて熱を冷ます様子は、どうも幼げが残っているように感じた。


カップから口を離すと、臨也は隣に座る静雄にもたれかかる。

「暖かいね」
「…お前だけだろ」
「寒いの?」
「んなことねえけど…」
「ならいいじゃん。…ねえ、シズちゃん」


ぐい、と胸元にしがみつくと、口と口が触れそうな距離にまで顔を近付けた。
「…キスしてよ?」

「……」

すでに顔と体制はその気だ。
最初からこんなことになるだろうとは予想していたので、今更断る理由もない。

不安定な背中を支えてやり、黙って口元を近付けると、あちらの腕がゆっくり腰に回される。
「ん…、」
静かに唇同士が触れると、臨也は小さく声を漏らした。
この感触にはもう慣れてしまった。
逆にいえば慣れた唇以外を受け付けるのは難しいということになる。

完全に洗脳されちまってんな。
いいのか悪いのかは自分でもわからないが、今はそんなことを考える場合ではないだろう。


触れるだけの長いキスを終えると、余韻に浸っている暇はないと言わんばかりに臨也の腕が深く体へ絡みつく。

「ねえ、もう一個お願いしてもいい?」

暖かい吐息が首にあたって、切なそうに訴える相手の目に気がついた。
玄関で会ったときのように柔らかくすりついて、今日一番の猫なで声で静雄に訴えかける。



「俺、今度はシズちゃんのホットミルク欲しいなぁ」


まあ、こうなることも予想していたが。







食らいついて頂戴


真夜中のラッシュアワー


クライマックスはすぐそこ


残念だけど愛しちゃうから に続きます。







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あきゅろす。
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