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「…ち、がう。そうじゃなくて……」

「…じゃあ、どうして泣いてるんですか」

「は…、恥ずかしい、からっ…!こうやって触れてると、俺の思ってる事とか、全部…。伝わっちゃいそうな、気がして……」

「…ッ!十代目…」



 言ってしまってから、俺は自分がかなり恥ずかしい事を言ったのだと気付いた。これじゃあ獄寺君が言ってる言葉が恥ずかしいとか思っていられない。



(俺って、結構乙女チックな事考えてる?)



 これじゃ恥ずかしさの無限地獄だと、俺は内心頭を抱えてのた打ち回っていた。だけど、不意に獄寺君の手が俺から離れていった事で意識が現実に戻った。



「十代目!」



 グイッと肩を掴んで身体の向きを変えられて、俺は獄寺君と向き合う形になっていた。
 目の前には、とても余裕の無さそうな顔をして俺を見つめている彼が居て、呼吸が止まりそうになる。



「…すみません。今日はもう何もしないって言いましたけど、やっぱり無理です」

「え、え?」

「…キス、してもいいですか?」

「え、ええぇっ!?」



 突然そんな事を言われて驚いてしまったけど、でもそれをわざわざ訊いてくるという事は、俺の意思を尊重するつもりがあるという事だろう。さっき無理矢理された事を考えれば、獄寺君は今でも結構我慢しているんじゃないだろうか。



(…別、に。さっきみたいに突然されても……。)



 曖昧な返事をしてしまったけど、一応恋人なんてものになってしまったからには、多少強引にキスされてもいいかな、なんて考えてしまった俺は甘いのか狡いのか。



「いい、よ…?」

「……。っ、はい…」



 静かに目を瞑っていると、頬に両手が添えられて軽く上向かされた。すぐに唇に温かくて柔らかいものが押し当てられて、その感触が俺の脳を侵蝕していく。



(…う、わ。さっきのキスより、気持ちいいかも……)



 強引で余裕の無かったさっきの荒々しいキスとは違って、優しさで包まれる様な静かなキスが激しく高鳴っている俺の鼓動を徐々に落ち着かせていく。きっと、これが本当の獄寺君の持っている優しさなんだと感じられた。



「…っ、ん。ンんっ…」

「…っ、じゅう、だいめ…」



 こんな時まで十代目なんて呼ぶ彼に少しだけ違和感を感じる。そう言えば、獄寺君は俺の事をこのまま“十代目”としてしか扱わないつもりなんだろうか。
 それは何だか俺の望んでいる事とは違う気がして、少し胸が痛んだ。



(そうじゃ、なくて。)



「十代目、とかじゃなくて。俺を見てよ…」

「…え?」

「ちゃんと、名前で呼んでくれた方が、嬉しい…」



 少しだけ驚いた様な顔をした後、ゆっくりと微笑んだ獄寺君は嬉しそうに頷いた。



「はい、綱吉さん…」



 なんで“さん”付けなんだろうとか訊きたい事はあったけど、それでも彼の口から俺の名前が出てきた事は単純に嬉しかった。



(ちゃんと、俺の事を見てくれてる。)



 その事実は俺を安心させた。ボンゴレの十代目になるかもしれない事を前提においての関係なんて、そんなのは嫌だった。



「あ、えっと…」

「はい?」

「その…。だから、今度から、こういう時は名前で、呼んで…」



 恥ずかしくて下を向きながらそう言うと、小さく音を立てて額に口付けられた。



「はい、分かりました」



 そう答える獄寺君の声が妙に穏やかに聞こえて、今度は安堵で涙が出た。こんなに幸せな気持ちになるなんて初めてだ。
 心の奥からじわりと滲んでくるような。そんな温かな幸福。



 上がり続ける花火の音をBGMに俺達は見つめ合い、口付け合って、言葉に出来ない想いを触れ合う事で伝え合った。



(好き。好きだ。獄寺君が、好き。)



 やっと形を結んだ俺の想いを、心の中で何度も繰り返す。その度に、まるで本当に伝わっているみたいに、獄寺君は俺の名前を呼んだ。



「綱吉さん…。ツナ……」



(あ…、呼び捨て……。)



 名前を呼ばれる度に。俺が心の中で好きだと言う度に。胸が温かい気持ちで満たされていく。花火が上がっている事なんて忘れてしまうくらい、この時の俺達にはお互いしか見えていなかった。



(来年も、一緒に花火見て。それで…。)



 こんな風に、想いを伝え合える関係でいられたらいいと。自然とそう思えた。



Fin...



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