宝物(小説) 8 「貴方は、誰ですか?私は…」 「話は落ち着いてからな。まずは体を洗ってゆっくり眠れ。」 何よりも自分の過去が知りたかったが、優しい声に従った。 G 湯浴みをし、湯気を立てて部屋に入って来た静蘭は壮絶に色っぽかった。 本人が自覚してない分、いつもより無防備で正直なところ、こんな状況でなければ燕青は絶対欲情してただろう。 否、ただ理性が性欲に勝っただけのこと。 「さて、何から話すか…」 とりあえず間違いを起こさないよう机を挟み、お茶を用意した。 大人しく言われるがままに従う静蘭に、燕青はどうも調子が狂う。 「お前さ、何か覚えてるコトあるか?」 「……ないです。」 しばらく考えた後、首を横に振った静蘭に、燕青が眉を寄せる。 これは、どうすれば。 明日になったら医者に見せようと考えながら次の質問に移る。 「俺としてはあんま聞きたくないんだけど、お前…あの邸で何してた?」 「使用人として置いて頂いてました。」 「ふぅん。あれも使用人の仕事なのか?」 質問を重ねた燕青の声に、はっきりと棘が混じったのを敏感に感じ取った静蘭が、ビクリと体を揺らす。 「っ悪い!今のは忘れてくれ。そろそろお前の聞きたいこと聞いて?俺お前の過去すっげ知ってるから。」 慌てて謝った燕青が話題を変えるように、静蘭に質問を促した。 「私は一体どういう者だったのでしょうか?」 「お前の名前は『シ静蘭』」 「せいらん…」 「そ。んでトアルお邸の家人として住んでた。ちなみに立派な武官だ。」 「ぶ、かん?私が?」 「そう。それから俺―浪燕青な―とは昔馴染み。つか親友」 本当は恋人でもあるのだけど、それは伏せた方がいい気がして、燕青はそこで止まる。 一気に素性を明かされた静蘭が混乱した表情を浮かべ、燕青を見つめた。 「……何も覚えていない……」 茫然と呟く静蘭。 燕青は机上で握りこまれた静蘭の拳に手を重ねた。 「俺の一存だけどよ、今のお前を連れ帰って嬢ちゃんやみんなに心配かけたくねーから。しばらく俺と住んでもらっていいか?」 静蘭がぱっと顔を上げる。 「いいのですか?」 「おう!無理に思い出そうとしなくていいから、」 変に途切れた言葉に静蘭が疑問符を浮かべたが、燕青は笑顔でごまかした。 そうして山奥の小さな小屋のような家。 記憶を失った恋人との不思議な2人暮らしが始まった。 続く [*前へ][次へ#] [戻る] |