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宝物(小説)
2












とある成り上がり貴族の邸の一室で醜悪な笑みを浮かべる男が1人。
そのそばには、美しい顔立ちが長い髪で覆われた麗人が微動だにせず横たわっていた。





A




「わ、たし、は…」


「気がついたか。お前名はなんと言うのだ?」


「名は…わたしの名前…?」





しばらくして起きあがった青年に、男が尋ねる。
青年は整った柳眉を寄せ考え、苦悩の表情へと移った。




「何も覚えていない・・・」




茫然と呟く青年に男は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに含みのある笑みを浮かべた。




「記憶喪失、というやつか。」


「記憶喪失…。」




記憶とはその人の生きた証とすら言える。
それを全て失ってしまった青年は、茫然とした。
考えようとすると頭が割れそうに痛んだ。




「…ということはお前は帰る場所すら分からぬ身ということか」


「・・・」


「そんな顔をするな。そうだな条件しだいでは私の邸に住まわしてやってもよいが?」




その言葉に記憶を失くした青年ははっと顔を上げる。
男は彼の美しい顔、体を舐めまわすように眺めた後パチンと扇を開く。




「見たところ記憶を失くす前も家人をやっていたのだろう。私の邸の使用人として雇おう。」


「家人…」




その言葉に引っ掛かりを覚えた青年だが、記憶を取り戻すことはできなかった。
男はだが、と言葉を続ける。



「だが素性も分からぬお前に賃はやらん。」


「分か、りました。よろしくお願いします…。」




学んだこと、常識。
それらは忘れなかった青年は、礼儀として頭を下げながら、どうしてこうも不快感がするのだろうと不思議に思う。
自分の失った記憶と関係があるのかもしれないと思いながらも、やはり何も思い出せなかった。






続く

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