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05:予兆を示すような雲一つない空







あれから何日が過ぎた?あの日、あの後、宿屋の女将に部屋代とかその他諸々を払いに行ったら子供が気を利かすんじゃない!それは自分に使いなさい。と言われ、受け取っては貰えなかった。ユーリにももう仕事しなくていいんじゃないかと言われたけど毎日暇してるのもなんだからたまに手伝う程度だけ続けている。



そして……あれから毎日毎日、あたしの手は消えたり戻ったりを繰り返した。しまいには両手も消えかけた。死んでしまうんじゃないかって、怖くてユーリがいないときはひとりで震えて泣いた。どうしてあたしが?何であたしが?って頭の中で繰り返す。一度両手が完全に消えたときにふとあることが過ぎった。





もしかしたら元の世界に戻れるんじゃ?






って。何の確証もないけどそう思った。その時期が近付いてる、だから体が消えかけてる。そう思うと色々と納得も出来る。大好きな両親にも会える……元の生活に戻る。そうだ、戻れるんだ。やっとか帰れるのに何でだろう。



「……嬉しいはずなのに…寂しい?」


自分の家に帰れるってことはお父さんとゲームしたりお母さんのご飯食べたりマンガ読んだり、自分のベッドで広々と寝れるのに、なのにどうして寂しいと思うんだろう。心にぽっかりと穴が開いたような。
……寂しいって思うのは元の世界に帰るから?ユーリやフレンと離れ離れになって、今までの生活が無かったことになるから?あたしは、この部屋でユーリといたい?あたしは、ユーリが……



「空良、どうした?」



部屋のど真ん中でぺしゃりと座り込むあたしの頭上からの声。それと同時に起こったそれに体がびくんっと跳ね上がる。この時が来ちゃったんだと溜息を吐きそうになる。自覚してすぐって有り得ない。



「どっか具合でも悪い……っ!?おまえ…」



座り込んで背を向けたままのあたしをおかしいとでも思ったのかユーリはあたしの前に回り込み片膝をつく。そしてその目の前で起きた現象に、目を見張った。



「あたし……元の世界に帰るのかな、たぶん」
「いつからだ?」



泣きそうのを堪えて呟く言葉とは噛み合わないセリフが返ってくる。また消えかけているあたしの両手を見てちょっと怒ったような声のユーリに素直にこの間の、と前に様子がおかしくなったときからだと話す。



「…最初は、死んじゃうのかって思った。人が…消えて死ぬなんて聞いたことないけど、死んじゃうって思って……もう、お父さんお母さんにも会えなくて……ユーリたちの前からも、いなくなっちゃうって……」



今まで滅多なことじゃ泣かなかったあたしがここに来てからは泣き虫になった気がする。ボロボロと落ちる涙。怖い……色んなことが怖い。明確にはわからないけどたぶん全部が怖いんだ。



「帰れるかもしれない……帰れないかもしれない。でも、あたしは……このまま消えちゃう。ユーリの前から消えちゃう……」



もはや何が言いたいのかもわからない。止めどなく溢れる涙は本当に怖いからなのかもわからない。でも止まらない。



「……空良」



一生懸命、両腕で流れる涙を拭いているとふわりと抱き寄せられる。左手をあたしの肩に置いてもう片方の手で頭を撫でる。温かい。ものすごく温かい。なのにもうすぐこの温かさは消えてしまう。


「……あたし……帰りたくない……」



ずっと帰りたいと両親や友達に会いたいって思ってたのにいつの間にかここでの生活が当たり前でユーリやフレン、ラピードやテッドたちとの他愛もない会話が楽しかった。最初は困ったユーリと同じベッドでの就寝も慣れれば心地よくて。



「ユーリたちといたいよう」



ワガママな駄々っ子だ、これじゃ。それでも一緒にいたいって言うのは悪いこと?



「オレはここにいる」



ぐしゃぐしゃの顔でユーリを見れば、いつものようにどこにそんな自信があるんだってくらいの笑顔だった。でも、うん…いつものユーリだ。



「……バイバイ」



体が透き通ってきた。もう時間はない。最後くらいは笑わなきゃって涙で濡れた顔で今出来る精一杯の笑顔を浮かべる。いつか、もし……なんて夢みたいなことを祈るように思いながらあたしの体は完全にユーリの腕の中から消えた。





あたしはユーリが好きなんだ





(初恋よ、さよなら)



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