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04:空虚な気持ちを写す雨雲





ユーリの胸で大泣きして部屋に帰ってフレンの料理を食べた。この年にして初めて胃薬なる物に手を出した。危険…フレンの料理はやっぱり危険だった。もう少し、自覚ってものを持って欲しいって本気で思ったよ。



因みに、休憩中に大泣きして目を腫らして戻ったものだから女将さんはあたしが具合が悪くなったと思ったらしく早く帰って寝なさい!とその日までの給料をパシッと手渡して帰宅を促された。客商売してるのにあんなヒドい顔で出るのも気が引けたからその言葉に甘えてあたしは早退した。



「何やってんだ?」



窓に頬杖をついて外を見ているとどこからかびしょ濡れで戻ってきたユーリに声を掛けられる。棚からタオルを二枚出して一枚をユーリに手渡し、もう一枚でラピードの体を拭いてやる。



「急に降ってきたから眺めてた」
「参ったぜ。店出たらいきなりだもんな」



ここに来ての初めての雨。晴れたり曇ったりを繰り返していたと思ったらいきなりざぁーって大きな音を立てて降り出した。



「お風呂でも入ってくれば?」



雨で体が冷えちゃったでしょ。って善意で言ってやったのに、ユーリはニヤリと何か企むように口の端を上げて笑った。嫌予感……いや、悪巧みか?



「一緒に入るか、空良」
「ばっかじゃないの」



どこまで節操なしなんだよ。ユーリがスケベって事はこの数週間で理解した。下町の人からもフレンからもその話を聞くしユーリ本人にも問えばあっさりとそうだと返す。ユーリがスケベって分かるけどそれを12の子供に言うことか?十歳近くも離れてるんだよ……今度からロリコンとでも呼んでおこうかな。



「とっとと入る!」
「へいへい」



下級生の悪ガキより質が悪い。どこまで自由奔放なんだろう……あんな大人良いんだろうかって疑問も生むけど、何だかんだと優しいんだよね。てか困ってる人を放ってないタイプかな、あれは。



「ラピード…あたしってユーリを見くびりすぎ?」
「くぅーん」



渋々と塗れた体を温めに行ったユーリがいなくなった部屋でちょこんってしゃがみ込み、くつろいでるラピードの頭を撫でる。ユーリって何者なんだろう。そんなどうでもいい疑問が浮いてくるわけで……うーん、ユーリの前で思い切り泣いちゃったときから何かよくわかんないけどあたしはおかしい。



葛藤……って言うんだっけ。正直なとこ、ホームシックで泣いたのは間違いないんだけど、けどなんか元の暮らしに戻ったときのことを考えても悲しくなってきた。ここに何時までいられるのだろうか、何時になったら帰れるんだろうか……どちらになっても困るあたし自身に困る。



「…えっ?」



ラピードの頭を撫でていた手を見ると何だかんだ透けて見える。手のひらの向こうに薄っすらと床の木目が……どういうこと?透けるって。

消えかけてる……消えかけるって。



「…い、いやっ!」



消える消える消える……それってなくなっちゃうってこと?あたし、消えてなくなっちゃうの?死んじゃうの?
怖い怖い怖い……何それ、なんで?どうして?



「空良、どうかしたのか?」



急に大声出して。わしゃわしゃとタオルで髪の毛を拭きながら部屋に戻ってきたユーリと目が合う。あたしはそんなに酷い顔をしていたのかユーリは目を見開いて二度三度瞬きをした後、眉を寄せてしゃがみ込んだあたしの前に腰を下ろす。その表情はすごく難しそうなんだけど困惑しているようにも見えた。



「なにかあったのか?」



声も低い。心配かけてる…悪いことをした。そんなよくわからない罪悪感が頭を過ぎる。チラリと消えて見えた手を見るとさっきみたいに消えてはいなかった。いつもと何ら変わりがない。



「だい……じょう、ぶ」



だと思う。自分でもわかるくらい声は震えていた。普段の強気はどこに行ったと思うくらい本当に震えていた。



「…えっと…む、虫」
「虫?」



見たことのない虫にビックリしただけ。すぐにバレるような嘘を吐いた。何かを察してくれたのかラピードも何も言わない。それでユーリも仕方ないったみたいに無理やり納得したみたい。



あたしはどうなる?





(これは予兆なのかな?)




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