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03:溜息吐く曇り空





半分ユーリの抱き枕になってる気がしないでもない。初日はさすがのあたしもドキドキしたけど……だって会ったばっかりの男の人と一緒に寝るなんてあり得ないし……翌日からは意外と熟睡してしまっている。でもそれは疲れてるからで。



「空良ちゃん、これ一番テーブルにお願いね」
「はーい!」



元の世界に帰るための手段を探そうにも、どう探したらいいのかが分からない。あたしの性分としてはいつ帰れるのか、もしくは帰れるのかもわからない状態でいつまでもユーリやフレンに世話になっているのは許さないから生活費を稼ぐために働かせてもらっている。一週間……このテルカ・リュミレースにある帝都ザーフィアスでの生活を始めた日数。始めた仕事が忙しすぎて両親や友達や学校のことを考えてる暇がない。



「……勤労小学生って有り得ない」



休憩を貰って店の裏で座り込む。見上げた空はここに来ての初めての曇り空。雨が降ることはないと思うけど、どんよりとした灰色の雲は今のあたしの心境を代弁してくれてるかのよう。孤児扱いになってるあたしは下町のみんなに良くしてもらっている。
それに悪いことは何もない……ただ、やっぱり違う世界の人間なんだと理解させられる。



「帰れるのかなぁ」



帰りたいかと聞かれればそりゃあ帰りたい。家族や友達のいる所に帰りたいと思うのは当たり前だと思う。あたしは子供だ。だから正直まだ家族が恋しい。テレビとかマンガのない世界は慣れてしまえばいいんだろうけど一週間くらいじゃ物足りたくて慣れない。



「頑張ってるか?」
「あ、ユーリ」



木箱の上に座って足をぷらんぷらんさせているとラピードを連れたユーリがよっ、と片手を上げて立っていた。人がちょっとホームシックで泣きそうなときにいつもタイミングよく現れるのが何だかムッとなる。なんでかは知らないけど。



「とりあえずは」



昼時は混む。夜はもっと混むけど子供のあたしは働けない。夜の客はほとんどはお酒目的。そんな所に12才のあたしが働けるわけがない。



「今日はフレンが腕によりをかけるって言ってたぞ」
「うわぁ、ヤだなぁ…ってフレン来るんだ」



普段から忙しいフレンが来ることよりフレンが料理を作ることの方が怖くて驚かされた。
どうしようかなぁ。逃げようかなぁ。何処に?とりあえずはユーリがフレンの料理を平らげてくれるまで逃げ回るかな。



「ああ、そうそう。フレンが後で迎えに来るってよ」
「えっ!?だって仕事は?」



可愛いお前のために休み取ったってよ。ニタニタとイヤな笑みを浮かべるユーリ。



「いやいやいや!騎士ってそんな理由で休めるわけないじゃん!」
「諦めろ。アイツはやる気満々だ」



万事休す……休んだってことは仕事が終わる頃には迎えに来るって事で。いっそ早退して逃げるか?あーダメだ。今日貰えるお給料で宿代払うんだった。



「……フレン……悪いけど己を知ってほしい」
「オレも常々思ってる」



顔はカッコいいと思う。真面目で…たまに過ぎるけど…誰にでも優しくてしかも騎士様。夢見がちな女の子から見たらほんとに王子様に見えるかもしれない。けど…それとこれとはまた別の話で。り、料理だけは控えてほしい。



「アイツもアイツなりにお前のこと、心配してんだよ。腹括れ、デザートはオレが作ってやるから」



仕方ない、か。人の親切をムダにするのもイヤだし、気を使ってくれてるのはたとえ迷惑をかけてる身だとは言え嬉しい。そう思えるあたしは子供なわけで。



「これでも食べて元気出せ」
「これは?」



ユーリが差し出した包みを広げてみると中身はサンドイッチ。ユーリは自慢げな顔でオレ特性サンドイッチだ。食って見ろ。そう言うからぱくりと一口。



「……おいしい」



どこにでもあるサンドイッチだけどなぜか美味しかった。ああ、そうだ。お母さんが作るサンドイッチと同じ味だ。食べ慣れた味……ヤバい。ガマンしてたのに。



「……ふぇ」



どんなに堪えようとも流れ出るそれは止まることはない。泣き出したあたしの足にラピードは頬をすり付けてくる。慰めてくれてるのは分かるけど涙は止まらない。



「泣きたいなら泣け」



ぎゅっと抱きしめてくれるユーリ。いつも寝るときとは何か違う。でも、今のあたしは寂しくて辛くてそのユーリの行為が心地よくて。この後の仕事の事なんて頭になかった。



帰りたい……でも。



(この温もりは永遠に欲しいって思った)



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