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夢の狭間







『何でこんな事に!』



誰かの声が聞こえる。すごく懐かしくて安心するのに、その声は泣き声だった。悲鳴じみたように何で……と繰り返している。



『気をしっかり持て。――も頑張っているんだ』



声がもう一つ。これも聞き覚えのある低い声。誰の声だっけ。いつの間にか目を閉じていたのか目の前は真っ暗で、これじゃあ見えないはずだよと目を開けてみる。



「………えっ?」



目を開けて初めて知ったけど、あたし宙に浮いてるよ。しかも眼下には……いや、眼下にもあたしがいた。頭や腕に包帯を巻いて、顔には酸素マスクらしきものを付けられて寝かされている。しかもその寝かされてるベッドの脇には何年振りかに見る両親の姿。そうだ、今のあたしは13才の姿で眠っている16才の姿じゃないんだっけ。
何だ。この他人事みたいな感想は。何があったかわからないけどあたしは事故か何かにあって病院に運ばれた。で、怪我のせいなの意識不明ってやつみたい。でも、あたしって佐助たちのとこに行く前って家で寝てなかったっけ?記憶まで可笑しくなってきたのか?それは困るよ。



「……何これ」



いまいちよくわかんない。自分が目の前にいるのに。違う人みたい。あたし、だ。確かにあたしなのに。姿が今と違うからなの?一度子供に戻ったから?それとも、あそこで眠るあたしがあたしだと思えないからなのか。でも姿形はあたしと両親で。混乱してきた。



『この子が何でこんな目に遭わなきゃならないの!?』
『少し休め。全然寝てないだろう』



病室から出ていく両親。母さん、泣いてた。結構肝っ玉母ちゃんって感じの強い女なのに。あんな弱々しい所なんて初めて見た。



「……冷たい」



下へと降りて自分の顔を触ってみる。死んでるんじゃないかってくらい冷たくて。ああ、もしかして死にかけてるせいで戦国時代に行っちゃったのかなとか思ってみたり。





――……ちゃん





――……ちゃんってば!





また声がする。これも安心する声だ。あれ、誰だっけ。なんか記憶が混乱してばかりだ。そんな年でもないのに。ヤバッ、眠くなってきた。幽霊でも眠くなる、んだ。




「哀歌ちゃん?」
「……さ、すけ?」



ゆっくりと覚醒する意識。重い瞼を開けると目の前は霞んでよく見えない。けど視界にはオレンジ色がはっきりと写していてそれが佐助だと認識する。



「大丈夫?」



何が大丈夫かはわかんない。あー体もダルいとかぼーっと考えてれば、佐助があたしに手を伸ばす。何すんのよ、とで気怠そうに言おうかと思うと佐助の手……と言うか指はあたしの目元を掬うように動かした。そのときようやく気付いた。あたしは泣いていたことに。意識すれば頬もめちゃくちゃ塗れていて、枕にも染みが出来ているくらいだった。何で泣いてなんかいたんだろう。



「怖い夢でも見たの?」
「夢……なんか、みてたっけ……あれ?」



そうだ。なんか夢見てた気がする。でもそれが何の夢かわからない。はて、実は見てなかったとか言うオチじゃないよね?ならなんで涙なんか流してるんだろう。しかもこんなに。わかんなくて気持ち悪い。



「覚えてないだけだと思うよ」



佐助が懐から出した手拭いで顔を拭く。どうせ顔を洗うんだけど、そのまま洗いに行くには酷すぎる顔だろうし。こんなに泣いたのって久し振りなんじゃないかな。



「思い出せないのは癪だけど……なんか、悲しいような。でも、懐かしいような……」



それが何なのかわかんないからか凄くイライラする。たかが夢なのに、振り回させてる気がして。



「……なにすんのよ」



今度こそ口に出したのは佐助があたしの頭を撫でたから。何か勘違いしてる?そう言う訳じゃないのかよくわからないけど、ただ微笑みながら何度もあたしの頭を撫でる。意外に大きなその手で撫でられると、また涙が出そうになる。



「今は思い出さなくていいんじゃない」
「……他人事だと思って」



まだ頭の中でその気持ちがグルグル回ってる中の脳天気な言葉。それにあたしが返せば更に、だって他人事だもーん。とか言いやがるし。そうなんだけど、いや……佐助にそれを求めるのはどうだろうか。人を見てるけど見てない。忍びとして観察するだけで、感情を持った人としては何も見てない。



「もう、平気」



立ち上がって寝間着の上に一枚着物を羽織って部屋を出る。よくわかんない感情に支配されて、ここには居たくないと警告音のように頭の中で繰り返す。
これは何かの前兆か……





幻のような夢
(悪いことが起こんなきゃいい…)

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