「孫兵ーっ」 がさがさと草を踏み分ける音がして、数馬が姿を現した。 森に入ったはいいものの、僕がどこに居るかまではわからないらしい。まあ、わざわざ伝えようとは思わないけど。 「もう…どこ行っちゃったんだろ……うわあ!?」 あ、あれ、作法委員会の人が仕掛けた罠だ。 僕は声を出さないで笑った。宙吊りの数馬ってなんか、面白いし。 「数馬」 「そ、その声は…孫兵?どこ?」 「上上」 訝しげに顔を上げた数馬と、視線がかち合った。 僕を見つけられて安心したのか、ふにゃりと笑った数馬は、「探したよぉ」とか暢気なことを言っている。 「僕に何か用でもあったの?」 「え?そういうわけじゃないんだけど…」 「ふーん…じゃあ僕、帰るから頑張って」 木の上から飛び下りて、校舎の方向へと向かう。 降ろしてやらないのかって?忍者の卵なんだから、ひとりで出来るでしょ? 「ま、孫兵〜待ってよ!せめて降ろしてってよぉ…」 「…………数馬」 「何…?」 「数馬って、僕が居なきゃ生きてけないでしょ」 「…そうかも」 真顔で頷いた数馬の足から伸びた縄を、前振り無しに切り落とす。勿論数馬は、べしゃ、と地面に落ちた。 それを見て、また僕は笑う。今度は声を上げて。 「いっ…たた…酷いよ…」 「知ってるよ」 「あ、孫兵、そっちは――」 視界が暗転した。 上の方から、数馬の慌てた声が聞こえてくる。 「そっちは綾部先輩の塹壕地帯…って遅かったね…ごめん」 「見てないで引き上げてよ」 「え、嫌だよっ!」 む。 嫌とは何だい、嫌とは。日頃の恨み? 穴の中から、数馬を睨んでやると、おずおずと手が差し出された。 「最初っからそうすればい……「うわわ!」 いきなり暗くなったと思ったら、土くれと一緒に数馬も落ちてきた。 「…重」 「うう…だから嫌だったのに…」 僕は二度と数馬に助けは求めないと決めた。 −−−−−−−−− いつも後ろ暗い孫数ですが、今回は仲が良いご様子。 素敵企画「笑って愛しい人」さまに。 お題は#69さまより |