「おやまぁ、珍しい」
雷蔵じゃないが、考え事をしながら校庭を歩いていたら、落とし穴に落ちた。
やっぱり掘ったのはあいつで、不思議そうに私を見下ろしている。
「綾部」
「なんです?」
「見てないで引き上げろ」
「いやです」
まさか断られると思わなかったので、呆気に取られてしまった。
綾部は嬉しそうな声で言った。
「だって、いつも優秀な鉢屋先輩が悪戦苦闘する姿なんて、滅多に見られないので」
「…お前な」
流石作法委員。
としか言い様がない。お前は立派な委員長になれるぞ。
「委員長の素質って、非情なことなんですかね」
「知るか」
つれないなぁ、と言われたが、別に私は綾部の話に付き合ってやる義理はない訳で。
ただ、綾部はまだ何か話したいらしく、じっと私を見つめていた。
「まだ何かあるのか」
「考え事をして落ちたみたいなので
何を考えてたのかと」
「それは……」
おしえない
(いじわるですね)
「そんなに聞きたいか?」
「ええ、かなり」
「お前のことだよ」
冗談のつもりで言ったら、綾部は急に立ち上がって穴を埋め始めた。
「殺す気か!!」
その後たまたま通り掛かった滝夜叉丸のお陰で、死は免れたが、恩着せがましいので余計厄介になったのはまた別の話。
無料HPエムペ!