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そらばけ
悪夢の授業


「よってこの解は、±1となる。では、練習問題10まで解いてみろ。」

静まり返った教室にペンが走る音だけが響く。最初の頃こそ、音量を抑えた声で授業と関係のない話などが飛び交っていたが、今ではクラス全員――否、全校生徒がこの数学教師の前では無駄話をしない。しようものなら、それはそれは恐ろしいほどの目つきで睨まれたり――――

「井黒あきら。貴様、さっさと問題を解け。遅刻だけでは足らんのか。」

「生徒に貴様っていうセンセもどうかと。」

べし。と後頭部を教科書が襲う。ちなみに大変不本意ながらあたしのクラスの担任のため、他のどのクラスより接する時間が長いのも事実だ。

「あきらの場合、解かないんじゃなくて解けないんが正しい気がしますがね…」

「あー。確かに。あきちんって勉強自体嫌いだもんねぇー…」

(…あとで絶対殴る。)

背後できゃっきゃっする二人に軽い殺意すら覚える。…幽霊相手に殴っても仕方ないのだけど、そうでもしないとあたしの気が済まない。その間にも目の前に立つ数学教師と皮肉の応酬は続く。
なんだ。前門の狼、後門の虎ってやつか。

「逆です。正しくは、前門の虎、後門の狼です。」

「だあああぁぁぁ!人の心を読むなぁ!!」

…あ。
やっちゃった。

幽霊を認識できてるのはあたしだけで、他の人には姿はおろか声も聞こえない。つまり、今みたいに幽霊たちにあたしが声に出して返事をしても、他の人からすれば……
ただの独り言にすぎない。

「……………井黒、貴様」

何言か口を開くがタイミングよく昼休みを告げるベルが鳴り響いた。その一瞬の隙をついて机の中に忍ばせていた財布を掴んで、購買部へと駆け出す。それを合図に教室にいた生徒たちも次々と飛び出した。というのも、購買部は昼休みにヤバいほど混むのだ。
熾烈な競争が繰り広げられる廊下に(もしかしたら学校全体に聞こえたかもしれない)怒鳴り声が響く。

「貴様ら、小学生かあぁぁ!」

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