銀魂小説 前編 季節外れの台風が過ぎ去った朝。 鳥の囀りで、男は目が覚めた。 暦とは少し外れた季節に、長年馴染んだ身体は少し違和感が残る。 音の無い朝。雨も止み、風も無いようだと思い、身を起こし部屋を出た。 軽く身形を整え、目を覆うように撒かれた包帯を巻き直す。 ガラリ。 縁側に出て雨戸を開ければ、冷たい風が入り込んできた。山から吹き降ろす冷やされた風が、ああ、どこかで雪が降ったな、と、感じる。 雨戸を開け放つと、開放感が肌に伝わる。 冷たい空気の流れに、まだ日は昇っていないらしいと察する。 そのまま縁側に腰を下ろし、日の出を待つ。 朝焼けに照らされてゆく空の色を、見ることは出来なくともそこで待つのは。 「今朝は冷えるねぇ。もう秋は終わりかい?」 独り言のように呟く。その言葉に返事が返ってくることを知りつつも。 「まだ11月ですよ。秋はこれからです」 ふわり、と。 気配が屋根から降ってくる。軽い身のこなしで地面に降り立つ音を聞き、待ち人が来た事に口元を少し綻ばせる。 見えない視線の先に、一人の青年が立っている。 彼はその青年を『猫』と呼んでいた。 本当の名は知らない、自身も彼に名を名乗ってはいない。 それでも何故か、会話は成り立っている。 「おはよう」 「おはようございます」 「今朝は遅いねぇ。それとも『早い』のかい?」 「生憎『遅い』方です。これから家に帰ります」 「寒いのにご苦労だったねぇ」 「いえ、仕事ですから」 親しげに離す二人。 歳の離れた二人の会話は実に穏やかだった。 『猫』は男に近づくと、同じように縁側に腰を下ろした。吐く息は落ち着いている。特に急ぎの帰路ではないようだと男は察した。 <後編へつづく> [次へ#] |