銀魂小説 前編 都心に立つマンションの一室。 間接照明で淡く照らされる部屋に、三味線を弾く男が一人。 静かに弾かれる弦の音、ふと指の動きが止まると風が流れた。 一吹き。ベランダのガラス戸から吹いた風がカーテンを揺らす。 「猫…でござるか」 「にゃぁ。…って、言わせんな」 「これは何とも、可愛らしい侵入者」 万斉は三味線をソファーに置き立ち上がると、突然の来訪者を迎えた。 「ぬしの方から会いに来るとは、どういう風の吹き回しか?」 「俺だって不本意だけど、逃げる途中の隠れ場所に、これほど適した場所はないと思って」 「はぁ…仕事中でござるか」 「元同業者、ってところかな」 黒い忍装束に身を包んだ山崎は、覆面を外しながら苦笑いをした。 山崎はそのまま部屋の中に進むと背中の刀も下ろし、先程まで万斉が座っていたソファーにドサッと座る。まるで我が家のように寛ぐ姿に、今度は万斉が苦笑いを見せた。 そして、背後のベランダから数人の気配が消えたことを確認して、遮光カーテンを閉め鍵を掛けた。 「行った?」 「ああ、此処がぬしのアジトと判断したようでござる」 「じゃぁ、後からお客さんが来たらさ、上手く追い払っといて。【人斬り万斉】て言えば、その筋じゃ印籠みたいなもんだろ?」 「山崎殿、…わざと追っ手をここへ導いたな?」 「察しがいいね。だって屯所に帰るまでに撒くのは面倒なんだもん。それに俺が真選組だってバレたら、せっかくの獲物が隠れちゃうだろ?」 「はぁ…、有能な監察でござる」 「そりゃどーも」 山崎の隣に万斉も座る。二人分の重さにソファーが僅かに軋む。 置いてあった三味線を手に取ると、山崎が指で弦を一本弾くと、音が鳴った。 「あ、普通の弦だ」 「それに仕込みは無いゆえ、今ここで立ち回ることは無理でござるよ」 「なぁんだ…残念。追っ手が聞き分けのいい奴らで助かったな」 「そのガッカリ感は何でござるか…」 「別に」 再び弦を弾き出した山崎と、その隣に座る万斉。 ビン ビン ビン やがて音が止むと、山崎は三味線を手放すと万斉の肩にもたれた。 「今後は、こういった手間を掛けないで貰いたい」 「うーん、それなりに善処します?」 「疑問系でござるかっ」 「うぉっぷ?!」 懲りずに悪戯っぽく笑う山崎に、万斉が覆いかぶさる様に襲い掛かった。 クッションの効いたソファーでモゾモゾと絡み合う二人。 「うひゃひゃぁ!わかったって!。もうしない!ゴメンなさーい!ちょ、くすぐんなぁ!あひぃ!」 「本当でござるかぁ?。約束を違えばこんなモノでは済まさぬぞぉ」 「ホントっ!ひっうひひっ!マジでしないから!」 「この様な無粋な真似をぜずとも、拙者に一声掛けてくだされば協力いたそう」 「あはっはっ…え?」 「ただし、それなりの対価は貰う所存」 山崎の身体を擽っていた万斉の指先が、徐々に動きを変え場所を変え動いてゆく。 その先にたどり着くのは、密着した二人の下半身。 「やっ?!待ってって」 「はて?、何を待てと?」 「ぅううううっ…、知ってて聞いてるくせに」 「言うてみよ。何を待てと?」 「いっ!、やっ…急に触るなぁ」 万斉の片手が山崎の下半身を愛撫し、もう片方の手で服を脱がし始めている。 器用に解かれる黒尽くめの服から、次第に素肌が露になってゆく。その黒と白のコントラストに万斉はサングラス越しに目を細める。 何と妖艶なことか。 [次へ#] |