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銀魂小説
A初めて心から笑った(万山)
「お前もういい加減にしろよ」
「いい加減になど出来ぬことは、ぬしが一番良く分かっているでござろう」
「そのいい加減じゃなくて!。ああもう!日本語通じてくれ!」
「充分に意思の疎通が叶っていると思うが?」

人気の無い裏道りで向かい合う山崎と万斉。
コレが初めてではなく、ほぼ月に二度三度のペースでこんなやり取りが続いている二人。

何の気まぐれか、敵であり一度は命を奪おうとした山崎を助け、これもまた何の気まぐれか執拗に付回すようになった万斉。
それは正しく「ストーカー」の如く行く先々に現れ、更には非番の日まで調べているのである。
山崎にしてみれば全力で拒絶したくなるのも、当然といえば当然の相手。

そして今日も、こうして会えば常に睨み合う事になる。

「狙いは何だよ」
「狙い?、とは」
「俺を付け回す目的。何を企んで俺に近づくんだよ!」
「狙いはあるが、企みとは聊か心外でござる」
「やっぱりか!、何だよ!俺の命か!組の情報か!。言っとくけど俺は、2度も生き恥を晒す気は無いからな!」
山崎は腰の刀に手を伸ばし、抜刀の構えを取る。
間合いは充分、踏み込めば避けられてしまう相手だが、こちらとて対抗する意思を示さねばならない固持を持っている。
「知りたいか?、拙者の狙い」
「是非とも吐いて貰いたいね。ついでに鬼兵隊の事も聞かせてくんない?」
冗談めかして言ってみはみるが、山崎の額から一筋の汗が流れる。
緊張と恐怖。山崎は引き攣る表情を無理やり挑発するような笑顔に変える。

「良い顔だ。が、拙者の好みではない」
「お前の好みなんて聞いてねぇよ!。アレか!地味な顔は嫌って事か!悪かったな!」
「いや、タイプでござるよ?。出来ればもっと可愛く笑って欲しいと」
「何そのムチャ振!?。可愛くって俺に言った?!」
「山崎殿は出来る子でござろう?、ささ、笑ってくだされ」
「子とか言うなぁあああ!」

本気とも冗談とも付かない会話に、流石の山崎も疲れ始めた。
万斉の本心が一向に掴めない。
一度は命を奪われたも同然の相手が、目の前に現れれば身構えてしまうのは本能といえよう。
山崎にとって、万斉は『斬るべき敵』なのである。

それが実際には、執拗に付けまわしながら直接手は出さずに、今のように言葉遊びのような会話を楽しんでいるようだった。

「頑なでござるな、山崎殿は。もっとも、そんなところにも惚れ申したが」
「マジでヤメテくんない?、別な意味で身の危険を感じるから」
「危険ではなく、期待の間違いでは?」
「ホントお前どんだけポジティブ!。典型的なストーカー思考だよ!」
「ふむ、では『人斬り』を名乗るのは止めて、これからは『愛のハンター』とでも・・・」
「でたーーー!。ストーカーの免罪符言っちゃったよコイツーーー!」
「山崎殿・・・、余程ストーカーにトラウマがあるのでござるなぁ、可哀想に」
「職場の愚痴は言いたくないけどね。って、何哀れんでんの!。今、正にお前がトラウマなんだよ!!!」
ハァハァと呼吸を荒げ肩を揺らす山崎が、もう突っ込みは疲れたと言いたげに万斉を睨んでいる。
そして緊張も恐怖も引き飛んだ代わりに、疲労と絶望が襲ってきた。
「勘弁してよぉ・・・、分けわかんないからさぁ」
方法は違えど敵に翻弄され手も足も出ない。この状況に情けなくて泣きたくもなる。
「もう、俺に構うなよ・・・」

そんな山崎の姿を見て、万斉は無言のまま間合いを詰める。
一歩踏み出し近づこうとした、その時。

カツン

「あっ」
「あ?」

ベシャーーーッ!

万斉が地面に伏していた。

カラン・・・と、音のする方を見れば万斉の足元には空き缶が一つ転がっていた。

「・・・つぅ!。拙者とした事が、何と言う不覚」
「・・・ダッセェ・・・」

あの『人斬り万斉』が空き缶を踏んで躓いた挙句地面に伏した。
それも目の前で。
山崎はポカンと呆れた。そしてじわじわとこみ上げてきたのは。

「お前、カッコわるーーーー!」
満面の笑みで笑い始めた。
先程までの悲愴な面持ちとは打って変わって、それはなんとも無邪気な笑顔だった。
笑い過ぎて身尻に涙まで浮かべている。
「あの人斬りが!すっころぶ!マジダセェ!ひー!オカシイ!」
終いには呼吸困難寸前のようにヒィヒィ笑っていた。

「大願成就、でござる」
「は?」
山崎の笑い転げる姿を黙って見ていた万斉が、ぽつりと言う。
何の事か分からない山崎が、漸く笑いを沈め再び向かい合うと、黒尽くめの洋服に付いた汚れを払いながら嬉しそうに笑う万斉が居た。
「ぬしの笑顔、それが目的てござる」
「俺の?、お前、笑われたかったの?」
「そのような趣味はござらぬが、ぬしの無心の笑顔が見たいと思うた故、こうして会いに来るのでござるよ」
「ますます意味がわかんないんだけど」
「次は啼かせてみたいものだ」
「いや、既にさっき泣かされかけたよね俺」
「その泣くではござらぬ」
言うが早いか、先程の醜態を微塵も感じさせない俊敏な動きで山崎に近づき、顔を近づけ唇を掠めた。
「この身体も、啼かせてみたいものだ・・・」
「なっ!?」
真っ赤になった山崎が離れようとすると、もう一度唇を奪われた。
ますます混乱した山崎が完全に固まってしまった隙に、万斉はフワリと離れ姿を消した。

薄暗い裏通りに一人残された山崎は、しばらく呆然と立ち尽くすしかなかった。

「まさか、次は本気で啼かすつもりじゃ・・・ないよな?」

一体どうやって?。

触れ合った唇が、不安と、そして微かな期待をもたらした。




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