[携帯モード] [URL送信]

銀魂小説
@初めて手を繋いだ(似山)

平日の昼下がり。
山崎は町を巡視中に或る人を見かけた。

通りの端に置かれたベンチに座る人。
杖を手に持ち、顔を包帯で隠したその人は…。

「旦那…さん?」
じっと座っている姿は、いつもの屋敷で見る姿のそれで間違えようが無い。
すると、人の気配に気付いたのか顔を巡らせると山崎の方を向いた。

「やっぱり、旦那さんだ!」
「坊やかい?」
その人は少し意外そうな顔を見せ、それから嬉しそうに微笑んだ。
山崎も嬉しさに駆け寄よった。
「珍しいですね、町に出るなんて」
「この辺りは良く来るよ」
「そうなんですか?、会った事無いなぁ」
「坊やは?、仕事かい?」
「え?、ハイまぁ…アハハハ。連れとはぐれちゃって」
それと無しに、二人は核心の部分をはぐらかしている。
山崎は腰に刺した刀の存在を知られないように、そっと手で押さえた。
連れとは一緒に巡視中だった沖田が、例の如くサボっているからだった。
「坊や」
「はい?」
その人は自分の座っているベンチの横を指差し、山崎に隣に座るよう促した。
「ちょっとくらい、イイだろう?」
「はい」
仕事中に気が引けるが、何時もとは違う場所で会えた喜びが山崎を隣に座らせた。
刀の存在を気付かれないように、そっと座る。
隣に落ち着いた気配に安心したのか、男は山崎の手に触れた。

指を絡め、繋いだ手。
それはまるで「恋人繋ぎ」。

「あ、あの…旦那さん?」
「こういうのを、デートって言うんだろう?」
「はっ?!、なっ、何言ってるんですか!」
「あれ?違うのかい?」
「いや…あの、違わなくは、無いです、けど…」
山崎は顔を真っ赤にして否定したが、あながち外れていないことも事実。
お互いに口には出さないが「恋人」だと思っている。

しかし今は仕事中。デートと言い切れるわけも無く、嬉しさと恥かしさと困惑する山崎に構わず、繋いだ手を強く握る。
まるで、離したくないように。

「人目が、気になるかい?」
「まぁ…少し」
「…そうかい」
「ごめん、なさい…」

人目を忍んで、秘密の場所でしか出会えないと思っていた人と、今はこうしてお日様の元で公然と隣に座っていられる。
後ろめたさはあるものの、やはり嬉しいものだった。
しかし、現実問題はそうはいかないのだろう。
山崎の気配が次第にソワソワと落ち着かなくなってきた事を察し、男は仕方がないと苦笑いを見せた。

「あの、俺まだ…その、用事があって…」
「うん、そうみたいだねぇ。さっきから坊やの連れらしい人が後ろに居るよ」
「はい?」
言われて山崎はチラッと後ろを見る。
其処には出刃亀よろしく、物陰から見ている沖田の姿があった。
「何してんのあの人はっ」
「ああ、やっぱり坊やの連れかい。こりゃぁ悪い事をしたかな?」
「旦那さんは悪くないですよ、何時もこうなんですからあの人は…」
山崎はげんなりと項垂れた。
すると繋いだ手を引かれ、身体が男の方へ引き寄せられ、そのまま腕の中へ。
「え?」
「次は本当のデートを、しようや」
「あっ…」
山崎の額に暖かい感触が触れる。
オデコにキスなんて、まるでドラマのワンシーンのような二人は、何の違和感も無く町の雰囲気に溶け込んでいる。

「じゃあね、またおいで」
「あ、はい…また」

二人は立ち上がり、山崎は去ってゆくその人の後姿を見送った。
ほんの僅かな時間、それこそまるで本当にデートをしていたように胸の鼓動が抑えられない。
繋いだ手と、キスされた額がじんわりと熱く心を満たす。

「本当も何も、何時も本当のデートしてるじゃないですか」
それが他人の目に触れるか触れないかの違いだけ。

「そういえば、手を繋いだのって初めてだ・・・」
盲目でありながら、介添えもなしに歩く事の出来る人に、手を差し伸べる必要も無かった事を今更ながらに不思議に思う山崎だった。



「やーまーざーきぃ」
「ひっ!?」

気が付けば背後には、バズーカを構えた沖田が標準を合わせていた。
「さっきのは何でィ。洗い浚い吐きやがれィコノヤロー」
「ちょ!、仕舞って下さいそんな物騒なもん!」

その後、沖田の追及は深夜まで及んだとか…。





[次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!