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銀魂小説
後編
「山崎」
名前を呼べば、何事も無かったように振りかえる。特に後ろ暗い行動をしていたという自覚は無いようだ。

「何してる?」
山崎に近づいて行き傍らに立つ。
その様子を視線だけで追うと、隣に立ち見下ろしてくる土方に顔を向けた。
下から見上げる視線。その目はやはり闇に覆われていた。見下ろしているはずの土方の方が臆する視線。
問いかけに答えない山崎に、ため息をつくと話しかけた。
「暇なのか」
「はい」
「それじゃ、命令してやる」
「はい」
顔色一つ変えずに返事をする山崎に、先程の笑顔が重なる。
「さっき、何を考えてやがった?。正直に答えろ」
「・・・それ、命令ですか?」
「ああ命令だ。俺の質問に答えるのが、今のお前の仕事だ」

命令。
仕事。

雇う者と、雇われる者。
二人の間にあるのは、それだけだった。

命令と仕事さえ与えていれば、それ以外は何もしない。
ある意味では、よく出来た雇われ者でもある。

「昨日の復習と、明日の予習」
「あぁ?」
「昨日、一人殺り損ねました。明日は、一人も殺り損ねないように」
「イメージトレーニングかよ。その割には楽しそうだったなぁ」
「想像の相手を、主殿で練習しました」
「俺かよ!!。つか俺を殺って笑ってたんかお前!。何!俺に何か不満んんーーっ!?」
「いえ、手近に想像できる手強れが、主殿しか思いつかなかったから」
「あ、そ・・・」
「想像でも、勝てなかったです」
そう言って、そこで初めて無表情が崩れ、口元が緩んだ。
「やっぱり、主殿は強い」
「…ったりめーだ。そうそう何処ぞの馬の骨の妄想で殺られるかってんだ。俺を殺りたきゃタイマンでかかって来いや。当然、返り討ち前提だがなぁ」
土方が不適に笑って身を近づけると、きょとん、とした表情の山崎を視線が合った。

幼い、あどけない顔だった。

こんな顔も出来るなら、何時かはその目に棲み付いている闇も追い払えるのではないか。
懐から一本タバコを取り出し、火を点す。
そして一息煙を吸うと、そのまま山崎の顔に煙を吐き出した。

「っ!、けむっ!」
「子供にゃあ、まだ早いか」
「受動喫煙でも、吸わせた大人が裁かれればいいのに」
「…マジで何か不満あんの?お前…」
山崎はふいっと顔を逸らし、俯いてしまう。
拗ねてしまったかと思い、やれやれと肩をすくめて立ち上がろうとした土方の目の前に、何かが掠った。

「…っ?!」
「タバコは喫煙所で吸って下さい」

土方の口元のタバコは消え、変わりに山崎の手に持つクナイの先に刺さったタバコが一本あった。
殺気も気配も感じなかった。
それでも、あっという間の出来事。

「…てめぇ。俺からタバコを取り上げるたぁ〜いい度胸じゃねぇか?。ええコラァ…」
「常識の範疇です」
「テメーが常識語るんじゃねぇーーー!」
大声と共に、腰に挿した刀に手を伸ばすと、想定内なのか山崎はヒラリと身を躍らせ土方との間合いを取る。
「主殿」
「何だァ!!」
「次の命令を」
「ほんっとに、よく出来た雇われ根性だよお前は…」

そんな二人のやり取りを、隊士達は物陰に隠れて見守っていた。
二人の居る渡り廊下を通らない事には、自分たちの私室がある居住棟に行けないのだ。
「まぁたイチャ付いてんですかィ。あの二人は」
「トシ…。飼い主が責任持つって言うからココに置いてるんだからさぁ〜。コレじゃどっちが躾けられてるのか分かんないよぉ…」
沖田の呆れ気味の言葉に、近藤も情けない声で愚痴を零した。


<おわり>


土方に拾われた山崎、というのが自分妄想設定の基本。
抜け忍の逃亡生活の末に、裏世界で身を潜めて生きていた山崎。
その密偵としての能力を見初めて、組に置くように連れてきた土方。
当初は、副長直属の密偵として『雇われ』る形で土方の側に仕えるようになる。隊服も着ていないので、他の隊士から不気味がられる。

従うのは土方に対してのみ。その為、呼称は『主殿』。

この後、山崎の功績で組内に「監察役」が新設され、正式に隊士として入隊する。
それから現在に至る。


そんな妄想でニヨニヨしてます。
土方に対して無関心な山崎も捨てがたい妄想。
山崎の性格の変遷も、これから書けたらいなと。

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