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銀魂小説
後編

じーっと見つめられている事に気付いたのか、山崎が怪訝そうに尋ねた。
「あの、旦那…」
「銀時」
「はい?」
「俺の名前。俺、『旦那』って名前じゃねーモン。俺のことちゃんと名前で呼んでくれたら、ジミーのこともちゃんと名前で呼んでやるよ?」
「うっ!?」
ニヨニヨと明らかにからかう気満々の笑みで銀時が言う。
言われてみれば、自身も『万事屋の旦那』という彼の肩書きをそのまま呼び名にしてしまっていたことも事実。
かと言って、身の回りで同じような呼び名が定着している中でいれば、例えば上司とかがそう呼んでいれば自然と身に付いてしまうもの。
「ほれ、呼んでみ?」
「う〜〜〜〜っ」
「呼んでくれなきゃ、ずーっとジミーって呼んじゃうぞ?」
改めて名前で呼ぶというものが、こんなにも恥かしいモノだったのか。山崎は口に慣れない単語をモゴモゴと口ごもる。
「ぎ…と…さん」
「聞こえなーい」
「ぎん、とき、さん」
「何だい、退」
突然名前を呼ばれて、山崎は一体誰の名前かと呆けてしまった。
「退くーん。どおしたの?」
「え?、ちょ、今」
「名前、『さがる』っていうんだろ」
自身の名前とは言え、滅多に呼ばれることの無い名前。むしろ読めないと言われ、なかなか覚えて貰えないのも事実。そんな自他共に認める地味な名前をサラリと呼ばれると、この上もなく恥かしさがこみ上げてきた。
「顔、真っ赤だぞ。さ・が・る・くん」
「いや…、もう…。か、勘弁してくださいジミーでいいですぅーーーーーっ!」
わあっと慌てて顔を手で隠すと、銀時の笑い声が聞こえてきた。
からかわれてる、遊ばれていると分かっていても、恥かしくて反論する余裕がない。
「卑怯ですよ〜、いきなり下の名前で呼ぶなんて」
「イイじゃん、呼び易そうだし」
顔を隠して項垂れている山崎の耳元に、銀時が低い声で囁いた。
「二人きりのときは、名前で…なv」
「ひっ!?」
山崎の耳元に、ちゅ、っと業とらしく音を立ててキスをすると、その身体がビクっと跳ねた。
「アンタ!、何してんのぉおおおーーーっ!?」
「あはははは!。ジミーおもしれー」
「もう、からかわんで下さいよぉ。心臓に悪い」
忘れていた団子を再び手に取ると、それを美味しそうに頬張る銀時に、山崎はやれやれと苦笑いをこぼした。
この人には敵わないな、と、改めて思うのだった。

まだ、耳元に残る声。

ちょっと苦手で、ちょっと頼りなくて。
でも、とても信頼できる人だと。ほんの少し信頼の順位が入れ替わる山崎だった。

そんな、大江戸の平和な午後のひと時。


<おわり>


初の銀山でした。相変わらずヌルイですすみません。

この二人の様子を向かいの喫茶店からストーカーしている万斉の姿があったとかなかったとか。
山崎、いや銀さん逃げてー(笑)。


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