PARODY
再会〜Boy meets boy again〜Side.AH
「ティエリア?なんか今日、そわそわしてない?」
僕は朝から少し様子の違うティエリアに声をかける。どうも水曜日の昼休みに図書室から帰ってきてから、落ち着きがないように見える。
「そんなことはない」
「あるだろォ」
ティエリアの言葉に、ハレルヤがすかさず反論する。
「珍しく早弁までして……昼休みに何かあるの?」
僕は良い機会だと思い、さらに気になっていたことを尋ねた。
「何もない……っただ……ちょっと借りたい本があって………」
なぜだか焦ったように否定するティエリアは、明らかに何かを隠している。
「フェルトに頼んでおけばとっておいてくれるんじゃない?」
わざとカマをかけてフェルトを呼ぼうとすると、ティエリアはそれを慌てて止める。
「ダメだっ……約束、してる、から……」
「「約束!?」」
僕とハレルヤは声を揃えて驚いてしまった。失礼な話だけど僕ら以外にティエリアに約束をするような友達がいるとは思えなかった。
「それって……誰と?」
僕は、なんとか口を開き、ティエリアに尋ねる。ティエリアは答えにくそうに言う。
「……知らない」
「知らないってどういうことだァ?」
ハレルヤが言う。
「知らないけど、彼が借りた本を次は僕が借りることになっている」
「それは……」
僕らは顔を見合わせる。同じ顔をしたハレルヤが困った顔をしている。僕も同じような顔をしているのだろう。
僕らの懸念はただひとつ。
その相手が、ティエリアを狙っていて、よもや手を出してきたらどうしようということだ。入学当時からその容姿で注目の的だったティエリアには、今やファンクラブというか親衛隊のようなものまでできている。
いわば、学校のアイドルなのだ。
「大丈夫だ。彼は先輩だ。困っている後輩に助け舟を出してくれただけだと思う……」
ティエリアの説明を聞く限り、悪い人じゃなさそうではあるけど、不安は残る。やっぱりダメだとティエリアに告げようとした時、ハレルヤが言った。
「行ってくりゃいい」
「ハレルヤ!?」
僕は慌ててハレルヤに反論しようとするけど、飄々とした様子で返してくる。
「いつもより早めに図書室に行くだけの話だろォ」
「だけど……」
まだ渋っている僕に、ハレルヤが耳打ちしてくる。
「とりあえず行かせて、ティエリアのあとをつけて行こうぜェ」
相手の顔も拝んでみてぇ
ハレルヤの呟きに僕は仕方なく頷いた。
「あんまり、慌てて行かないようにね」
僕の言葉に、ティエリアは嬉しそうに頷く。
「ハレルヤ」
僕はそっとハレルヤに呼びかける。
「ン?」
「なんで、ティエリアが行くのに反対しなかったの?」
「ああ……あいつがあんなに必死になる相手も見てみてェし…あんだけ必死なあいつも見たことなかったからなァ」
それに、とハレルヤは続ける。
「あいつだって、そろそろ外に向かって行かなきゃだろォ。いつまでも俺らと一緒ってわけにはいかねえよ」
「そう、だね……」
昼休みになると、ティエリアはすぐに教室を出ていった。向かう先はもちろん図書室。
慌てるなと言ったにも関わらず、急いでいる。
ティエリアの待ち人はいったい誰なのか。僕らは、ティエリアからはわからない場所に身を潜め様子を窺う。
ティエリアのファンか、親衛隊か、ストーカーか……。
しかし、そこに現れたのは……
「「ニール・ディランディ!?」」
僕らは、小声ではあるが声をあわせて驚いてしまう。
ニール・ディランディと言えば、この学校で一番の有名人だろう。男女問わず人気がある。
ふたりははじめこそなんとなくギクシャクしていたものの、自己紹介をした後には、なにやら楽しげに話している。そこにフェルトがやってきて、本の返却、貸出の手続きをしていた。
「ハレルヤはどう思う?」
ふたりは談笑を続けている。
その姿は、まさに後輩を可愛がる先輩と、その先輩を慕う後輩で、ちょっと見ただけではまさかさっき自己紹介しあっていたとは思わないだろう。
「見たところ、ティエリアの身に危険はなさそうだね」
「ああ」
「友達になったのかな?」
「友達……ね」
ハレルヤが含みのある呟きを漏らす。
「どうかした?」
「いいやァ……ところで、次は生物室だったよなァ?荷物、持ってきてやるから、ちゃんと見てろよ」
(まだやってんのかよ)
アレルヤはバカ正直に俺を待ちながら、ティエリアたちを見ていたようだ。
昼休みももう残り10分だ。そろそろ行かなくては、授業に遅れてしまう。ティエリアもニールもそれはわかっているはずなのに、ふたりとも何も言わず、席を立つ様子もない。
「アレルヤ」
その様子を眺めているだけのアレルヤを俺は促す。
「声かけようぜ。このまんまじゃみんな遅刻だ」
アレルヤは素直に声をかける。
「ティエリア」
「次は生物室に移動だろォ」
「ティエリアの教科書とかも持ってきたから、そろそろ行かなくちゃ、ね」
ティエリアは名残惜しそうな顔をし、ともすれば不満げともとれる声で返事をした。
「ああ……」
ティエリアが曖昧な返事をする一方で、ニールは明らかに邪魔をされたという顔をしている。
「あの、ありがとうございました」
ティエリアのその言葉に、ニールは表情を緩ませる。
「ああ……また、な」
「はい……」
ニールはティエリアの頭を撫でる。このふたりの醸し出す雰囲気に気がつかないというのだから、アレルヤは我が兄ながら呆れてしまう。
「では、また」
ティエリアは俺たちの前以外ではめったに見せない笑顔で微笑んだ。
「じゃあ行こうか」
アレルヤはご丁寧にもニールにお辞儀をする。俺とアレルヤはいつものようにティエリアを間に挟んで歩き出した。
ふと目線をニールへと移せば明らかに俺たちを睨んでいる。
「友達、ね」
こりゃあ脈ありじゃねえか、ティエリア。
奴が噂通りの奴なら、な。俺たちのチェックは厳しいぜぇ、ティエリア?
(お前の選ぶ道にこれ以上の悲しみがないように。それは思いやりというより、ただの俺たちの独占欲とよんでもいいような気持ち)
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