PARODY
出逢い〜Boy meets boy〜Side.T
彼との出逢いは、図書室だった。
高校に入学して、1ヶ月。僕の日課は、昼休みに図書室に通うことになっていた。アレルヤたちと昼食をとった後に、図書室で本を選ぶ時間はとても幸せだった。
「ティエリア」
図書室に入るとフェルト・グレイスに声をかけられた。彼女は、僕のクラスの図書委員で、図書室によく来る僕に声をかけてくれるようになった。
「新刊が入ったの」
「そうか、見てみる」
彼女が言っているのは、僕が好きな小説シリーズの新刊のことだろう。
僕はそのシリーズの置いてある棚へと向かう。
僕はその本を見つけ、取ろうと手を伸ばす。すると、ちょうどその本のところで、他の手と重なった。
―その手の持ち主こそ、彼、ニール・ディランディだった。
僕はどうすればいいのかわからず、しばらく彼の顔を見つめた。彼はおや?という顔をして、その心地良いテノールで話しかけて来た。
「お前さんも、この本借りたいのか?」
親しげな彼の話し方に驚いた僕は、小さく頷くことしかできなかった。
「そうか……でも、俺もこのシリーズの新刊楽しみにしてたしなぁ……」
お先にどうぞ、そう言おうとしたとき、彼は言った。
「じゃあジャンケンでもするか!」
「ジャン、ケン……?」
「そそ、平等だろ?」
じゃあ、と言って、彼は勝手にジャンケンを始める。
結果、僕はグーで彼はパー。
「じゃ、悪いけど俺から借りるな」
そう言う彼を、あっけにとられた僕はぼんやりと見ていて、頷くことすらできなかった。それを彼は僕が納得していないものと解釈したのだろう。
「う〜ん……じゃあ、今日が水曜だから、あさって!金曜の昼休みに返しに来るから、その時借りろよ。これなら、誰かに借りられることもないだろ?」
反射的に僕がこくりと頷くと、彼は満足そうに笑った。
初対面の人にこんな風に笑ってもらったことはなかった。僕は奇異な存在であると、そう感じていた。
それを何も感じさせない目の前の存在に、僕はふと安心感を覚える。
「じゃあ、約束なっ」
彼は笑顔を絶やすことなくいう。
「やくそく……」
「そ、じゃあ、また金曜日に」
彼は、そう言うとその本を持っていく。
「やくそく……」
小さくなっていく彼の背中を見ながら、あまりいい思い出のないその響きを、思わず繰り返す。
とにかく、図書室の本である以上いつかは読めるだろう。別に彼は関係ない。
決して、約束に期待などはしない。
でも……僕にあんな風に笑ってくれるなんて………
彼は、違うのだろうか。
この約束は守られるのだろうか。
(多分、その瞬間からもう恋に落ちていた)
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