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04ごめんなさい



「なんだ、跡部じゃん!」

「なんだじゃねぇ。てめぇ、いい加減朝練にも顔出しやがれっつの」

「だって朝は眠いC〜」

「言い訳は聞かねぇぜ。いいな、明日からは絶対来いよ」

「Aー! 無理っ! そんな早く起きられるわけないじゃん! 跡部の鬼〜!」




…行ったかな?

さっきより若干教室のざわめきが大きくなった気がする。
これはいなくなったと思っていいんでしょうか。



「……行ったぜ、跡部」


宍戸がぼそりとあたしにだけ聞こえるように呟いた。
その言葉のおかげで、だいぶあたしの緊張も解けて安堵のため息が出る。

なんでだろうか。
意味もなく人を苦手と思うのはダメなことだって分かってるんだけど、頭からあたしはあいつを拒否してる。
別にあいつに何かやなことをされたわけでもないし。
ほーんと、人体って不思議…。



「お前ぇさ、ほんと跡部と目合わせねぇよな。部活中も」

「………そ?」

「何だよその妙な間は」

「……だって、なんかさ…」


あたしが口を尖らせてそう言うと、宍戸ははあとため息をついて苦笑い。
まあしょうがねぇな、なんて言いながら背伸びをする。



「でもいい加減慣れろよ。2年も一緒にいるだろうが」

「…んー…」


わかっちゃいる。けどもうなんていうか…わかんないけど跡部がすごーく苦手、という感情は頭に居着いている。
頭で避けちゃダメだってわかってはいるんだけど、いざ本人が前に来ると体は面白いほど正直。

…跡部自身気付いてるだろう。
勘も鋭いし第一跡部。インサイトやら何やらって言うくらいだし。
その証拠に、跡部自身もあんまりあたしに寄って来ない。
一瞬ちらりと目は合うけど、合った途端にいつも離される。
言葉だってあまり交わさなくなった。
内心ごめんなさいとは思いつつも、あたしと跡部の距離は近付くことはない。

少し寂しいような気もする。
…あたしが言えた義理じゃないけど。






「唯子、早英呼んでるぜ」


退屈な数学の授業終了後、宍戸にそう言われて肩を揺さぶられた。
あたしはまだ開ききっていない目をこすりながら早英のとこへ向かう。
「何?」って聞いたら「バカ」と返された。



「唯子…お前ぇぼけすぎ」

横を通った宍戸からぽん、と弁当を渡された。
ああ、そういえばもう昼か。寝てたから気付かなかった。

ようやく覚めてきた頭で宍戸にお礼を言い、早英と一緒に中庭に向かう。
本当はひなたぼっこが出来る屋上がいいんだけど…屋上はカップルの集い場。
そんなとこに女二人では怖くて行けない。授業中は絶好のサボり場所なのに…。




「そういえば今日、跡部来たでしょ」

「ああ、うん。何で?」

「跡部がため息ついてた」

「…ため息?」


早英と跡部は同じクラス。
だから知っている。跡部はあたしのクラスに行く時は必ずと言っていいほどため息をつくらしい。



「…そっかー」

「ま、必要以上に絡まれるよりかはいいんじゃない? お互い様ってことで」

「うん…」



ため息をつくほどあたしに会うのが嫌なのか、と少しショック。
跡部を苦手だと言ってる張本人なんだけど、ね。





「あぁ!」


何気なく空を見上げたら、何だかテニスボールに似たような雲を見付けてあることを思い出した。

…やば、忘れてた…。

それは放課後までにボールの確認をすること。傷んだものがあったなら破棄するように、って榊先生から言われてたんだ。
何千個あるボールの確認作業をマネージャー一人でしなきゃいけないと思うと気が重い。

さすがに何もやってないのはマネージャーとしてどうだろうかと思ったあたしは早英に謝ってから、重い足をひきずりひきずり部室へと向かう。
こういうとき、何で氷帝は広いのかと呪ってしまう。


他より少し大きめなテニス部の部室につく。遠かった。10分もかかっちゃったよ…。
あと5分しか昼休みないなぁとは思ったけど、午後一発目の授業は国語、現代文。
あたしはどっちかって言うと文系の頭だから、大丈夫だろうと勝手な解釈をして部室のドアを開けた。

開けてから気付いた。
あれ、あたし鍵開けてない。

そんなこと思いつつ、誰かいるのかとそーっと中を覗いた。




「あ、」



部室のソファーには恋愛小説片手に紅茶を飲む、伊達メガネのあいつが腰掛けていた。
あたしに気付くと侑士はお、と声を漏らし軽く手を挙げた。

あたしも、よっ!っと言って侑士の頭をぽんと叩いて挨拶返し。
侑士は痛いわーなんて言いながらへらへら笑っていた。

それから早くやっちゃおうと思ってボールがたくさん入ったカゴに手を掛けた瞬間、侑士に声を掛けられた。



「あ、もしかして確認しに来たん?」

「そのつもり。太郎ちゃんに言われたし」


そう言ってひとつひとつ確認し始めたあたしを見ながら何か思いついたように笑う。
侑士の笑い声が耳に響く。



「ああ…それな、もう終わっとるで」

「はぁ?」


可笑しそうに笑う侑士は確かにあたしの持つカゴを指差して言った。
何を言っているんだ伊達メガネ。
マネージャーの仕事を代わりにやってくれる心の優しい人なんて、長太郎と樺っちくらいしかいないでしょう!
それに二人とも私がこの仕事を頼まれていたなんて知らないし。

でも確かにカゴの中には傷んでいないボールばかり。その隣のカゴも、その隣も。
半分以上…いや4分の3以上は確実にやられている。こんなに傷んでいないボールばっかなのはおかしいもん。



「4分の1は自分でやれってことちゃう?」


眉間にシワを寄せるあたしの隣に肩を並べる侑士。

だろうね。でもなんで? 一体誰が?

あたしの頭は疑問ばかり浮かぶ。
でもとりあえず途中までやってくれたどこかの誰かさんに心の中でお礼を言いつつ、残された4分の1を侑士に手伝ってもらいながら終わらせた。
やってみたら、4分の1なんて全くなかった。




next.



***


テニスボールをやってくれたのは誰でしょうか(^-^)

氷帝は200人も部員がいるんだから、きっと玉数も半端ないんだろうな…。
と思うあいのでした(笑)


管理人:あいの






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