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17溶け出した世界


屋上の空気は清々しかった。んーっと伸びながら、屋上の真ん中まで歩く。さっきまでここにオープンカフェみたいなセットがあったんだ。無機質なこの屋上に、何だか景吾は似合わない。私の隣で風に目を細める景吾を見ながらそんなことを思った。
座ろうかな、床を軽く手で払って座ろうとすると、ちょっと待てと景吾に阻止された。不思議に思ってたら景吾はおもむろにブレザーを脱ぐときれいにたたんで床に置いた。そして、なんとその上に座れと促してきたのである。


「な、何言ってんの!ダメだよ!」

「いいから座れ。俺様の優しさを無駄にすんのか、アーン?」

「いや…だって…」

「…そこが嫌なら俺様の膝の上がいいか?」


ドッキーン!景吾が変なことを言うからうるさく急に心臓が跳ねた。固まる私を見て景吾は冗談だ、と笑ってから再度座るよう促す。…景吾の冗談は冗談に聞こえないからいちいち緊張してしまう。真っ赤な顔を隠すように小さくわかったと呟くと景吾のブレザーの上に静かに腰を落とした。その隣に景吾は座ると小さく欠伸をひとつ。寝不足なんて、景吾が珍しい。


「寝不足?」

「…ああ、大丈夫だ」

「あんまり無理しないでね?」

「当たり前だろ」



それから何分経ったろう。そよ風にさらさら、二人の髪が揺れる。風が温かくて気持ちいい。あまりの温かさに気分がふわふわとして来て瞼がぐんと重くなった。それと同時に左肩にもとん、と軽く何か触れた。少しの重みと。何だろうと目線を向ければ視界いっぱいに優しいブラウンが広がった。しかもあの私の大好きな香りに支配されたからには覚醒しないわけがない。眠たかったあの時は今やどこにも存在しない。かわりにとくとくと心音が早まるのを感じた。

(ち、近い…っ)

寝息ももちろんダイレクトに聞こえる。寝起きに近い私の頭はもうパニック寸前、落ち着こうと深呼吸しても侵入してくるのは景吾の匂いばかりでさらに緊張してしまう。

どうすることも出来ず、ただ私は動かないよう極力努力した。よく考えれば景吾の寝顔なんてレアかもしれない。私の肩ですやすや眠る景吾はなんだか幼く見えて微笑みが漏れてしまう。母性本能って言うのかな。なんだかすごく愛しく感じてる。

(…体制きつくないかな?)

そう思った瞬間、景吾の頭がするりと肩を滑り落ちて、ゆっくり下降する。ここここれは俗に言う膝枕、というやつですか?それでもなお彼は目を覚まさない。さらに心臓のスピードは加速する。

ドキドキしながらゆっくり景吾の柔らかそうな髪に手をのばした。思った以上にふわふわと柔らかい髪が気持ち良くて思わず撫でると景吾が小さく声をあげた。起きたかと思ってびっくりしたけど、また寝息が聞こえたから少しほっとした。ゆっくりおやすみ、景吾。


心臓は相変わらずうるさく騒いでいるけど気分はお花畑。周りすべてがパステルカラーのように淡く感じる。少しでも長くこの世界にいられますように、私は小さく神様にお祈りした。



(チョコレートが溶けたみたいな、甘い香りが私を支配している)



***

17話はとにかく甘でした
そろそろラストスパート!





あきゅろす。
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