16また始まる非凡的な日々
お昼を食べ終わり久しぶりに景吾とお話しながら教室まで戻った。ジローちゃんは樺ちゃんに担がれながら、隣には宍戸も歩いてる。廊下中の視線はすべて私たちに集まっていた。あーそういえば最近あんまりこういう視線感じることなんて皆無に近かったからちょっと新鮮な気分になる。
じゃあね、と景吾と別れてさあ移動教室だ。教科書とノートを持って急いで理科室に向かう。いつもと変わらない廊下をひとり歩いていると、急に誰かに呼び止められる。振り返れば香る、香水と化粧の匂い。あれ、同じ学年にこんなこいたっけ?失礼ながらも思わずジロジロと見ながら必死に思い出す。首を傾げた私にムカついたのかその女の子は眉を吊り上げるとギロリと私を睨み付けた。
「ジロジロ見てんじゃないわよ!」
「え、あ、ごめんなさい」
本当に女は団体で行動するのが好きなんだなあ、と再確認する。うわ、この感じもなんか久々な気もするんだけど。内心ドキドキと期待しながらも微妙な笑いが顔に出さないように我慢する。黒く塗られた目10個の視線に刺され、怖いというよりなんだかワクワクしていた。マゾだから、とかじゃなく遊園地に来た子供たちのような、そんな感じのワクワクなんだ。
チャイムが辺りに鳴り響く。かれこれ無言のまま5分ほど経った。相変わらず彼女たちは黒い目を吊り上げながら私を見ている。
「あのー…用が無いなら私移動教室なので…」
「はあ?マジで言ってんの?」
「はい?」
「あんたから謝るの待ってたんだけど」
来た!久しぶりすぎる。心の中で喜びながら下手な演技を続けた。あーあ、でもなんかめんどくさいや。授業に来ない私のこと、宍戸たちは心配してくれちゃったりするのかな。ふふっと小さく出た笑い声に彼女たちは気付いたのか急に声を荒げた。
「あんたさあ、最近跡部さまにずいぶん馴れ馴れしいんじゃない?」
「身の程をわきまえなさいよ!」
「マネージャーなんだから仕方ないし第一馴れ馴れしいのはお父さんからの遺伝で…」
「ふざけんなよ!」
手を叩かれ派手な音を立てながらバサリと教科書やノートが床に散らばる。いやいやふざけてないですよ、いたって真面目なんですけど。無造作に床に転がる教科書をぼーっと見ていたらまた彼女たちのキーキーとした声が耳に入った。おかしいのは君達でしょうが。一際高いキーキー声が耳に入った瞬間自分の中で何かが切れた。
「ふざけんなはお前らだろーが。私にあたるなコノヤロー」
「はあ?開き直り?」
落ちた道具を拾いながらふるふると手が出そうになるのを必死で止めた。あの時のワクワクはいずこ、今はすべて理不尽な理由による暴言によりイライラに変わってしまった。私は一度拾ったにも関わらず、また教科書を床に叩きつけた。
「私は景吾が好きなんだから、アタックして何が悪いんだ!」
また拾うのも格好悪いと思ったから名残惜しかったけどそのままにして踵を返しとりあえず歩いた。今から授業に行ってもしょうがない、また屋上に行こうと決め角を曲がった。誰かにぶつかる感触、そしてあの香り。慌てて見上げれば私の目に真っ直ぐ飛び込んで来たのはチャームポイントの泣きボクロ。かーっと体温が急上昇したと思えばさっと一気に血の気が引く。さっき私、大変なことを言ってしまったよね。
「助ける必要なかったか?」
「けっけけけけ景吾さんん!」
可笑しそうに笑いを堪えている景吾だった。もちろんさっきの爆弾発言も聞いてたわけですか?今きっと私の顔真っ青だろう。言って、しまった。
「聞いてた?」
「…いや、会話は聞こえなかった」
最初の無言がちょっと気になったけど聞こえなかったという景吾の言葉にひとまずほっと息を吐いた。
「…素直に嬉しかったがな」
「ん?」
ぽそりと呟いた景吾に聞き返せばなんでもねえ、そう言われて頭をくしゃりとされた。景吾それ好きだね、と不器用に返したら景吾はまあな、とまたくしゃり。そのまま腕を引かれ景吾と二人階段をのぼり行き先はどうやら屋上らしかった。
「け、景吾、授業は?」
「アーン?ひとりでサボりじゃつまんねえだろ?」
「でも…」
「ちょうど俺も暇だったしな」
「…、ありがとう!」
「当たり前だろ」
「にしても今日は景吾によく合うね」
「そうか?ま、仲直り記念日だからいいだろ」
本日二回目の屋上のドアを開ければ眩しい太陽のオレンジ光線が私たちを照らす。ちらりと盗み見た景吾の髪がキラキラ反射していてすごくすごく綺麗だった。心臓がむず痒くて、ドキドキしていた。
(お日様の魔法だね、)
next.
***
久しぶりに更新!遅くなりました…いつになったら終わるんだろう。
とりあえず完結目指して頑張ります!
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