15完全仲直り記念日
それから朝練は終わり授業が始まる。なんだか気分が清々しい。いつもよりテンション高めで早英に挨拶をすれば早英はびっくりしたように間を置いてから小さくおはよ、と返して来た。まあ早英は私のテンションの高さに驚いたんじゃなくて多分景吾と並んで歩いてたことにびっくりしてたんだと思う。
昼休み、苦手な化学の授業で頭を使いすぎたせいかお腹がすきすぎて気持ち悪い。はやく何か入れようととりあえず自分の席でさっさと弁当を開いて食べはじめた。
「おい唯子」
「ん、なに?」
「跡部がよ、久しぶりにみんなでメシ食おうって…」
「早く行こうぜ!」
私が返事をする前にがっくんに強引に腕を引っ張られ強制連行。ちょっと待ってよ岳人くん!私お弁当閉まってない!それでもがっくんはお構いなしにわたしを引っ張っていく。宍戸はしょーがねえなとため息をつきながら私のお弁当箱をしまい、持って来てくれた。唐揚げ一個食べられたけど。
「遅くなって悪い!連れてきたぜ!」
着いた先は屋上。宍戸以外のレギュラーはすでにもうお揃いのようだ。ジロちゃんは樺ちゃんを背もたれにしてぐうぐう眠っている。
屋上はオープンカフェのようになっていて何人ものコックさんやパティシエさんが立ち並んでいた。大方景吾の家の専属の人たちなんだろうけど。後から来た宍戸もさすがに驚いたようで私の弁当を持ったまま目をぱちくりさせていた。
「何でも好きなもんを頼め」
「さっすが跡部財閥!お昼から豪勢ですなあ」
「俺とお前の仲直りの記念だからな」
景吾はにこりと笑いすっと立ち上がり私の手を取ると席までエスコートしてくれた。流れるようなこの感じ、やっぱ景吾はお坊ちゃまなんだなあと改めて思う。やっぱ庶民の私なんかが跡部財閥の子息と釣り合うわけないな、そう考えてたらくしゃりと頭を撫でられた。またあの丸眼鏡、侑士だった。
「まーた変なこと考えとるやろ。顔暗くなっとるで」
「マジか…」
「腹減って変なことしか考えられんくなってんちゃう?はよ腹いっぱいにしていつもの唯子に戻りや」
ことりと私の前に皿をひとつ置き侑士はさっさと自分の席に戻って言った。
(アップルパイ…)
侑士が置いて行ったのはあの日私が泣く原因になったアップルパイだった。フォークを手に取り一口運ぶとさくりと音を立てるパイ生地に甘酸っぱい林檎が口いっぱいに広がった。
「…うめえか?」
控えめに聞いてくるのは景吾。私の隣に腰を下ろし私の反応を伺っている。景吾がこんなふうに慎重になるなんて…結局景吾にこんなふうにやらせてしまったのは全部自分が悪いんだ。失った信頼を取り戻すのってやっぱり難しいのかもしれない。
「…ひゃいっ…!」
アップルパイをもぐもぐしていたら急に頬を引っ張られた感触がした。咄嗟に出た声は思ってた以上におかしくて近くにいた長太郎が小さく吹き出しているのが目に入る。ふと犯人を見ればそれは景吾で優しく目を細めながらぷにぷにと私の頬を引っ張っていた。
「へいほ、いひゃいいひゃい」
「ははっ」
「わらうな!」
「それでいいんだよ」
景吾はふっと笑うと掴んでいた頬から手を離し私の手からフォークを奪い取るとアップルパイをつけて私に差し出した。
「え、」
「食わねえのか?ほら」
これは恋人達がやるというあーんとかいうやつですか?まさか景吾さん自分の口癖と引っかけてギャグかましてるとかそんなんですか?差し出されたアップルパイを見つめながらこれは突っ込むべきかボケ倒すべきか考えてたら景吾は不思議そうに首を傾げる。
「いらねえのか?」
「え?あ、い、いただきます…」
怖ず怖ずぱくりとかぶりつく。かーっと全身が赤くなってきてるのがわかった。なんでこいつはこんな恥ずかしいことを平然と出来るのだろうか。赤くなっている私をよそに景吾は子供らしい笑顔を浮かべてこう言った。
「これで完全仲直り、な」
景吾の後ろで宍戸や侑士たちが優しく微笑んでるのがかすかに見えた。…あーやっぱり私、氷帝テニス部に入ってよかった。今心からそう思います。
(どないしたん顔が真っ赤やでー)
(おい大丈夫か?!)
(…景吾くんって天然デスカ?)
next.
***
さていつまで続くんでしょう 笑
すいませんダラダラ書いていきます!
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