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12ありがとう



あの後すっきりした頭で家に帰ると夜に宍戸から電話が入った。いつもより、少し声が低くてなんか怒ってるみたいだった。長太郎からの報告メールを見る限り部活中もカリカリしてたみたいだ。ごめんよ長太郎、多分ていうか絶対私のせいだと思うんだ。
あの時宍戸が私を呼び止める声はしっかり耳に届いていたのに無視したのは私なんだ。私も宍戸に無視されたらショックだし、きっと怒ってしまうだろうし。

だから少し電話に出ることを躊躇ってしまう。けどやっぱり宍戸には言わなきゃ私ももやもやのしたまま落ち着かない。



「…もしもし」

『唯子か?わりぃな、こんな時間によ』

「ううん、大丈夫…」



しばしの沈黙のあと、口を開いたのは宍戸ではなく私だった。こんな重い沈黙には堪えられない。そこまで強い精神力は残念ながら持ち合わせていないのだ。



「今日サボってごめんねー?あはは、大変だったでしょ!」

『…まあな』

「明日は行くから…」

『ごまかすな』

「っ、」

『忍足と何があった。跡部のヤローともだ』



真っ直ぐな宍戸の声にずきりと胸の奥が痛んだ。言わなきゃ。宍戸には言わなきゃいけない。そう何かが、私につげていた。



「あ、の…」


言わなきゃ言わなきゃと頭は急かすけど口が動かない。あ、とかう、とか一言しか出てこない。やばいまた泣きそうになる。最近本当に涙脆くなってしまってるみたいだ。



「えと、その…ね?」

『ああ』

「うんーと…」

『……わかった』

「へ?」



急に弱々しくなった宍戸の声にビックリして気の抜けた変な声が通り抜けた。その声が余程ツボだったのか、宍戸は静かに吹き出すと笑いはじめた。さっきまでのシリアスな雰囲気はいずこ一気に逆転した感じに慌てる私。



「え…宍戸?」

『いいわ、うん。気が向いたらっつーか言えるようになってからでいい』

「言うよ、私!」

『だーかーら、いいって』



柔らかくなった宍戸の口調に戸惑いながらもどこかホッとしてる自分にちょっと腹がたった。宍戸なりの私への気遣いもあるんだろうか。いやでもあんなに単刀直入に聞いてきたのに、何故だろう?



『確かに俺はごまかすなとは言ったぜ。でもな、全部言えとは言ってねえ』

「は……?」

『言いたくないなら言いたくないでいいんだ。唯子自身の気持ちをごまかすなって言ってんだよ』

「……」

『泣きたけりゃ泣きゃいいし黙りたければ黙りゃいい。…嘘だけは付くな』

「し、しど…っ」

『…俺が言いてえのはこれだけだ。夜に悪かった。おやすみ』

「!、宍戸!」



急いで名前を呼び掛けたけど聞こえたのは無機質な音。
やばい、今更になって宍戸はいいやつだと再認識させられた気がする。もし氷帝に跡部がいなかったら私、今確実に宍戸に惚れてたと思う。単純な女とか言わない!

宍戸のぶきっちょな優しさが妙に嬉しくてひとりベッドの上でにやけていた。涙は出ないけど少し視界が歪む。
ありがとう宍戸。私は良い男友達を得ることが出来たみたい。こんなに私のことを心配してくれる男友達…いや、親友なんてきっともう出来ないだろう。こりゃー一生大事にしなきゃいけない友情だ。
知らないうちにへへっと笑いが零れた。どうしよう、やばい嬉しい!


ごろごろベッドに転がっていたらバイブ音が部屋中に響いた。あまりにもいきなり過ぎてビクリと肩が上下する。あは、チキン野郎なんだわやっぱ私は。
今は何もかもが面白く感じて収まらないにやけを我慢することなくメールを開いてみれば、


●宍戸
Sub.無題
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てめえにやけてんじゃねえぞ

今日のことはさっさと忘れて
早く寝やがれ
      -END-



…どうやら何でもお見通しのような宍戸くんでございました。



(こんなこと普段言えないけど、)
(親友よ、大好きだよ!)




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***


遅くなりました12話。
宍戸との友情。






あきゅろす。
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