11スタートラインに立つ
跡部がこんな弱気なところを見せるなんて初めてかもしれない。いつも自信に満ち溢れてて、まあ…ちょっと自意識過剰で。だから跡部のこんな余裕のない表情は珍しい。
「なんで泣くんだよ…」
「うっ…ごめ、ん…」
話したいのに嗚咽でうまく話せない。その間ずっと、跡部は私を強く、だけど優しく抱きしめてくれた。この匂いやっぱり安心する。跡部に抱きしめられているとなんだか守られているみたいで安心感が心の奥から湧いて来る。
私が落ち着くまで、跡部は宥めるように私の背中を撫でてくれた。
「ありがと、跡部…」
「!ああ…」
私がそう言うと跡部は気まずそうに私を離す。でもあの氷みたいに冷たいオーラは消えていた。
跡部は至極穏やかな顔をしながら私を見つめている。その目で私を見てくれるのは何年ぶりだろうか?
「私ね……」
「あーん?」
とぼとぼと言葉を発する私に跡部は相変わらず優しい目線を向け静かに聞いてくれた。今まで跡部のことを嫌いだと、苦手だと思っていたことや今までしてしまったことの数々を謝った。何度も頭を下げて。
何度か頭を下げた時、頭に少し重みが掛かる。温かい。跡部の手が私の後頭部を撫でていた。
「あ、とべ…?」
「もう何も言うな」
「で、でも!」
「いいから、もういい。黙ってろ」
先程離された身体はまた跡部の腕の中に戻された。跡部の優しさに一度止まった涙がまた溢れて来てしまう。うーっと情けない声しか洩れない。
「…まあ正直、この俺様もさすがに傷付いたぜ?」
「いや…ほんとすいません…」
「はっ、もう過ぎたことにしてやる」
「でも私の納得が!」
「じゃあ、」
跡部は悪戯に笑うと私の頭をぽんぽんと撫でながら、
「前みたいに景吾って呼べば許してやらねえこともねえ」
なんて綺麗な笑顔で言うもんだからもう涙は止まらないよ。なんでこいつは、こんなにも優しいんだろう?私、今まで散々ひどいことをしてきたのに。
ぐずぐずと泣きながら笑っている私を見て跡部…いや、景吾が可笑しそうに笑っていた。こんなほんわかとした空気は久しぶりだ。懐かしい感じにまたじーんと来て泣きそうになったら景吾が「泣いてんじゃねえよ」と私の顔にハンカチを押し付けた。
「景吾おー!」
「よし、名前で呼んだから許してやる。しょうがねえからな」
この柔らかな空気はすごく心地が良いから、まだ好きと言わないでこの心地良さに浸っていたい。このままでも今はまだ心が満たされているし何より幸せなんだ。まだ、無理に背伸びしなくていいと思う。
「景吾、改めてこれからよろしくね」
「また新しいスタートだな」
お互いに握手を交わしてからこつんと拳と拳をぶつけ合った。端から見ればおかしな光景だということになんだかおかしくなってどちらからともなく笑みが零れた。
さあ、青春はまだまだ続く。非凡なやつらとの毎日は終わらない。景吾にだって、まだ本当の気持ちを言えていない。そう、これからが本番で大事な勝負どころなのだ。
景吾と並んで歩きながら、ずっと積み上げてきたこの想いを言える日を頭に思い浮かべた。
(好きだというのは、まだ言わない)
(いつか言える日を思い描いて)
END..?
***
いえ、まだ終わりません!←
というか終われません!
切れはいいけど…。
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