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10初めて見せた弱み



ごめん宍戸、本当にごめん。あの時の宍戸の声は本当に悲しそうだった。でも待ってて。私、自分にケリをつけたらきっと君にも話すから。私にとって宍戸は大事なヤツだからさ!

そんなこと考えながら必死に生徒会室へ走った。いつものことながら、氷帝は広すぎる。早く跡部に謝って気持ちを伝えたいのに。
階段を駆け上がって走って、ようやく見えた生徒会室の文字に胸が跳ねた。やばい、こんな緊張久々かもしれない。一歩一歩近付くたびにとくん、とくんと心臓が動く。

生徒会室前、跡部の声が聞こえる。ウスという声が聞こえたと思ったら目の前に立ち塞がるおっきな壁。否樺ちゃんである。
樺ちゃんは私に気付くと小さく会釈し、「跡部さんなら中です」と言ってドアに手を掛けた。



「ちょっと待って樺ちゃん。私さ、自分のペースで行くから…うん、いいよ」

「…そう、ですか…では」



彼はいい子だ。なーんて感動しながら二人分のテニスバッグを担いで立ち去る樺ちゃんの後ろ姿を見送った。
誰もいなくなり、辺りの廊下はしんと静まり返る。中に跡部がいるはずの生徒会室もまるで誰もいないかのように静かだ。いないんじゃないかなんて思ったけど樺ちゃんは嘘をつくような子ではない。それに生徒会室を出入り出来る入り口はここだけ。ということはやはりこのドアの向こうには跡部がいるんだ。


(む…無理だよ…)


ドアの前ですでに10分経過。いまだ進歩せず、ただドアの前で深呼吸を繰り返していた。あれ、私こんなにヘタレだったっけ?





「誰だ、そこにいんのは」



不意に聞こえたのは紛れも無く跡部の声だった。びくりと肩が震え咄嗟に声を出すことが出来ない。
どうしようまだ心の準備が…。

わたわたしてるうちに目の前のドアががちゃりと開いた。生徒会室の窓からさす光が直撃した。それと同時に跡部のシルエットが光に縁取られて目に入る。逆光で表情は見えないけれどきっと嫌悪感丸出しの顔をしてるんだろうなあ。
お互い何も言葉を発さず数秒の沈黙が続いた。痛すぎるこの雰囲気。



「あ、あとべ……?」

「…何しに来た。部活はどうしたマネージャー?」

「伝えなきゃ…いけないことがあって来ました」



跡部の氷のような冷たいオーラが怖かったけど今更後には引けない。多分私のせいで悪者になった侑士にも申し訳ない。変わるんだ、私は。
そう心に決めて、じっと跡部を見つめた。跡部は一瞬ぴくりと眉を動かしたけどすぐに平静な顔になる。言うんだ、言え唯子!



「跡部、とりあえず聞いて欲しいの」

「……」

「今更遅いかもしれない。けど私ね、跡部に謝りたい」

「はっ、何をだ」

「すべてを。…都合のいいやつだってわかってる。でも、言わなきゃ私の気がすまないの!」

「……うるせえ。今更お前と話すことなんてねえ…」



冷たい声色でそう言い放つと、跡部は私に一睨みきかせてから黙って私の横を通り過ぎた。オートロックの掛かる音がかちゃりと響いた。
そう、今更なんだ。私は気付くのが遅すぎた。本当に大切なものを失ってから気付くなんて情けない。情けなさすぎて泣けてくる。否、泣いてしまった。ああもう一日に二回も泣くなんて私、どうにかしてるよ。
私の嗚咽に驚いたのか跡部は珍しく焦ったようなそぶりを見せたが近付いて来ようとはしない。当たり前だ。これが今までの私のやったことの代償なんだ。



「ごめん、ごめ、なさ…跡部が望むなら私、許してくれるまで何度でも謝るから…っ」



嗚咽の間になんとか出た声は驚くほど気持ち悪かった。跡部を見るのが怖い。閉じてしまった目は恐怖と不安で開けられずにいる。軽蔑されたような目が、ただ怖かったんだ。
何を言われてもされてもいいという覚悟で必死に跡部からの応答を待つ。無視だけはしないで欲しい。そう思っていたら、ぐっと身構えていた身体は何か温かいモノにふわりと包まれた。このふわりと香る香水、今までは避けてきた匂い。そして今は、何よりも大事で愛しい匂いだった。



「お前は俺が…嫌いなんだろ?…何でだよ、何で…」


跡部の声は消えそうなほど小さくこのしんと静まり返った廊下でさえ響かなかった。私を抱きしめる腕も若干震えているようだ。あの、跡部が。

それは跡部が私に初めて見せた、弱気な言葉と表情だった。




NEXT.



***


結局まとめられず続きます。笑






あきゅろす。
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