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はじめて(楽しかった一日)




「今日一日が充実してたよ」


毎日続けばいいのになんて、ふと思ってしまった。





06.はじめて
(満たされているんだ、とても)








あのあと今まで通り普通に授業を受けて雅治は部活があると言って足早に教室から出て行った。私は意味も無くテニスバッグ大きいなあなんて思いながら雅治の後ろ姿を見送る。そのあとを丸井くんは待てよ仁王!と慌てて駆けて行った。相変わらず元気だな、丸井くん。丸井くんは教室を出る寸前にくるりと向きを変えると教室中に響くような声で「また明日な、お前ら!」と笑うとまた雅治を追っ掛けて走って行った。

部活に所属していない(屁理屈を言えば帰宅部に所属している)私はそんなテニス部二人を見送ると荷物を整理して帰ろう、と思ったけどさっき届いた雅治からのメールでとりあえずテニスコートへ向かった。おうおう、たくさんいるわ立海男子テニス部ファンクラブが。


「雅治、」

「お、来たんか」

「来いって言うから」

「どうせ暇じゃろ?」

「…どーせ暇人ですが」


雅治は拗ねた私の顔を見てけたけた笑うとそう拗ねなさんなと宥めるように頭を撫でた。

「練習、見て行きんしゃい」

惚れても知らんぜよなんてにやりと笑うと雅治はじゃあ、と部室へ入って行く。そういえば私テニス部の練習見るのなんて初めてかもしれない。いつもテニスコートの周りには女の子が集まっていて見れるもんじゃなかったから。シミュレーションする以前から雅治から見に来いとは言われてたけどなかなか勇気が出なかったのだ。

(私の意見は無視か…)

部室に入ってしまった雅治にため息をつく。見ていきたいけど、あの女の子たちに混ざって見るのは少し嫌だ。どこか空いてて見えるとこはないかとキョロキョロ見渡して見たけどどこもかしこもファンクラブで溢れている。


「どうしよう…」

「どうかしましたか?」

「あ…柳生、くん!」


掃除か委員会か、少し遅れた様子の柳生くんグッドタイミングでした。今までの話と私の意見を少し述べると柳生くんは何やら考え始めたようだった。

「それならいい場所、ありますよ」

案内しますと柳生くんに言われて、置いて行かれないようについていく。そんな心配しなくても、柳生くんから歩幅を合わせて歩いてくれた。さすが紳士と呼ばれるだけある。
ここですと案内されたのはテニス部の部室、しかもどうやら中らしい。ぽかんとしながら入口に立っていたらどうぞと中に促されるもんだから言われるがまま中に入ってしまった。


「ここはレギュラー専用のミーティング室なんです。そしてこの奥に更衣室があるんです」

「広…」

「マンモス部ですから。この部室はレギュラー専用なので気にせずいて下さい。特にミーティング室はあまり人も来ませんので。あ、仁王くんには私から言っておきますね」


それでは、と頭を下げると柳生くんはミーティング室のドアを閉めて奥に歩く靴音が聞こえた。
さすが部室、しかもレギュラー専用。テニスコートが真ん前にある。私はテニスコートに向いている大きな窓からコートを眺めた。目立つ雅治の銀髪を探せば簡単に見付かった。しかも今は丸井くんといるみたいで更に目立っている。いつの間にか柳生くんも合流していて真田くんの号令からどうやら部活が開始したらしい。ダブルスで何か練習するのか、真ん前のコートには丸井くんと桑原くん、それから柳生くんと雅治がそれぞれ立っていた。柳生くんが何か雅治に耳打ちすると雅治はふいっとこっちを見て嬉しそうに笑った。あ、なんか私も嬉しいかもなんて。

いよいよ本格的に練習が始まり、みんな一生懸命に小さなボールを追いかけて汗を流していた。さすが王者立海でレギュラーの座にいるだけはある、他の部員とは何かが違うな雅治のやつ。
ピーッと笛の音が鳴ると部員たちは一斉に四方にバラけた。休憩時間かな?と思ったのと同時に雅治が窓の外に現れた。「あけて」と口パクで言ってるみたい。


「お疲れー」

「ありがとさん」

「かっこよかったよ」

「なんじゃ、惚れたか」

「自惚れるな仁王め」


こういうバカみたいな会話してると自分たちがカップルだっていう感じは全然しない。いや、お互い好きで付き合ってるわけじゃないから当たり前っていえば当たり前なんだけどね。でも雅治といるときの、このふわふわした感じはすごく好き。信頼出来るっていうのかな、安心感が沸いて来るんだ。
次の笛が鳴るまで他愛のない話をしていた。クラスの話、丸井のバカ話や後輩くんの話、それから噂話とか秘密の話とか。まったく雅治の話は本当に面白い。終始笑いは絶えなかった。


「じゃあの」

「うん、頑張って」

「俺が部活終わるまでそこで待ってんしゃい」


一緒に帰ろう。

また夢がひとつ叶うんだ。うん、と返事をすると真田くんの怒鳴る声が耳に響いた。雅治は嫌そうに目を細めると真田はうるさいのう、なんて愚痴をこぼしながらコートに歩いて行った。おいおい仁王くん、せめて急ぐ振りくらいしようよ。相変わらずマイペースなんだから。遠ざかる雅治の背中を見つめながら少し可笑しくてなんだか笑ってしまった。
ああ、幸せってこういうことを言うんだろうな。




(退屈だった毎日が、貴方のおかげで満たされてるんだ)




next.



日常的なお話でした。
仁王は真田に怒鳴られようがマイペースを貫くと思います 笑






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