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まだ今は(わからなくてもいい)



「なんか変な感じ、」

熱くなった頬を隠すように笑った。





04.まだ今は
(曖昧なまま許して、)










さすがにこの時間帯、あまり登校してくる人がいない。何人かの女生徒に何だこの女とでも言いたげにじろじろ見られた揚句睨み付けられる。ひーん、恐るべしテニス部ファンならぬ雅治ファン。こそこそ話をされるのもちょっと嫌だ。

校門を抜けると聞こえて来たのはチャイム音と部活動が活動してるような声。あれ、そういえば部活朝練ないのだろうか?そう思って雅治を見上げたのとほぼ同時に響いた「仁王くん!」という声。声の主は雅治のダブルスパートナーであり親友の柳生くんだった。



「お、おーはよ柳生」

「おはようじゃないですよ。部活サボってまったく…、?」



はあと呆れたようにため息をついたのは柳生くん。ふと私に気付いたのか誰だろうみたいなオーラ出しまくりで不思議そうに私を見ている。
何と無く頭を下げてみたら柳生くんも少し控えめに会釈してくれた。



「ええっと…」

「ん、ああ。俺の彼女じゃ」

「そうなんですか!?」

「え、ええまあ一応…」

「仁王くん、遂に…いえ、おめでとうございます」

「おー、ありがと」



柳生くんはふわりと笑うと、仁王くんをよろしくお願いしますと言って背を向けた。途中で気が付いたかのようぱっと振り返ると「仁王くん、サボりはいけませんよ!」と声を張り上げた。雅治は「わかっとるって」と目を細めて笑った。
一見正反対に見える二人だけれど、こんな普通の会話場面を見るとああ本当に仲が良いんだなって思える。丸井とも仲は良いんだろうけどその友情とはまた違い、お互いを信じあっている強い信頼関係で結ばれているような友情。うん、やっぱりダブルスってすごい。



「柳生くんと初めて話したかも」

「そ?」

「うん。普通の男の子だね」

「は、当たり前じゃろ」



やっぱ菜月はおかしいのうなんて言われながらゆっくり教室まで歩いた。校内に人はちらほら見えるがその全ての視線は雅治…ではなく隣でちょこちょこ歩いている私に刺さる。いたたたそんなに見ないで欲しい。後輩からも睨まれるなんてさすがテニス部のファンは厚かましい。
はあとため息をつき自分の席につくと雅治は可笑しそうに笑いながらぽんぽんと私の頭を撫でた。そして雅治の手が私から離れた瞬間集まってくる友達。目がキラキラしている。



「何、どういうこと?」

「ちょっと、説明して説明!」

「え、っと…」



昨日あったことを一通り話し今日の朝あったことも話すと友達はきゃーっと桃色の声をあげた。
よかったじゃん、よかったじゃんなんて言いながら私の手を掴みぶんぶんと振った。



「でもシミュレーションゲームみたいな感じだし…」

「でもそれでも付き合ってみるってことは少なからず菜月には好意を抱いてるわけでしょ?」


そう言われてはっとする。そうだ、いくらシミュレーションだからと言って嫌いな人とは私だって付き合えない。というより付き合いたくない。恋人同士になるというシミュレーションを許すということは、やはり好意をもってくれているから?私、自惚れていいんでしょうか。
あ…逆に考えれば私も雅治との恋愛シミュレーションを許諾したということは私も少なからず雅治に好意を抱いているということだ。確かに雅治のことは嫌いではない。三年の仲だから。好きか嫌いかで聞かれたら、好きと迷わず答えるだろう。けれど恋愛感情で好きか?と問われたらまだ何も言えないんだ。よくわからなくて。
でもそういう感情でどこか雅治に惹かれている部分もあるのかもしれないけど、まだ気が付かなくていいと脳が隠しているのかもしれない。




「わかんないや」




曖昧に答えてからちらりと雅治を見ればぱちりと目が合って、にこりと女子悩殺スマイルを向けて来た。ときんと、胸がときめいた、気がした。




(まだわからないことだらけ)
(好き、嫌いなら好きなんだよ)




NEXT.





ヒロインちゃん少し考えます。
仁王くんのスマイルに女子たちは鼻血を噴き出すでしょう。





あきゅろす。
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