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チェンジ(世界が変わる朝)



「具体的に何すればいいの?」

友達の延長線上みたいな関係はなんとも微妙である。




03.チェンジ
(なにもかもが新鮮で、)




昨日のひょんな出来事から私と仁王は付き合い始めた。でもお互いが好き合って付き合っているわけではないから変な感じ。だから友達にも「彼氏が出来ました」とは軽々しく言えない。仁王はただ私の夢の協力をしてくれているだけだから、そんなこと言われるのは迷惑だろうし。

朝日の光に目が覚めまだ少し寝ぼけている頭を覚ますべく窓を開け朝の新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込んだ。
なんだかほんとに信じられない。実感もないし。結局、付き合い始めたけれど別段何かが変わるわけではないんだ。ただ二人のポジションが彼氏と彼女になるだけ。

立海の制服に腕を通し一通り身支度を終える。付き合い始めの初日ってなんかふわふわキラキラするもんなのかな、って思ってた私はあまりに普通の自分に驚いた。やっぱり恋愛といえどシミュレーション。恋愛シミュレーションゲームを現実でしてるようなもの、だからかな。



「いってきまーす」



なぜかいつもより早く準備が出来てしまいいつもより十五分も早く家を出てしまった。
お母さんの声を確認してからドアを開け、小さく深呼吸してからゆっくり歩き始める。あれ、表札のところに誰か立ってる。揺れる銀髪にすらりと細長い体型。そんなやつ私の知り合いでは一人しかいない。私の擬似彼氏、仁王雅治だ。



「仁王?」

「ん、おう。おはようさん」

「おはよう。どうしたの?」

「朝一緒に行こうと思ってな」



みんなやっとるじゃろ?とチャーミングに笑いながら私のスピードに合わせてゆっくり隣を歩き出す。うわあ、憧れだったことがひとつ現実になった。朝は迎えに来てくれて一緒に登校なんてもう無理かなって思っていたから。
歩いている間、私達は学校でするような他愛のない話を途切れることなくし続けた。友情の延長みたいな関係だから別になんの緊張もなく普通に話せる。ドキドキがない、っていうのが少し残念だ。




「付き合ったって言っても全然実感ないよね」

「んー」

「恋人同士って何が違うんだろ?」

「具体的には俺にもわからん」

「難しいね」

「…あ、そうだ」


何かいいことを思いついたかのようにぽんと手を叩きにこりと口角を上げた。


「お互い名前呼びにせん?」

「え?」

「俺もお前さんのこと菜月って呼ぶから、お前さんも俺のことは名前で呼びんしゃい」

「ええっと、」



いっつも苗字で呼ばれていた人にいざ名前で呼ばれると思わずドキリと胸が跳ねてしまうのは不可抗力である。だって、不意打ちすぎる。今まで男子に名前で呼ばれることなんてなかったからなんか自然と気持ちが桃色になって肺に入る空気すら甘く感じた。
仁王自身も女子を名前で呼ぶのも呼ばれるのもどうやら初めてらしく恥ずかしいのか頬には淡いピンク色がさしていた。仁王にとっては名前で呼ばれることは学校でもあまりないから、「私が特別なんだ」とちょっぴり実感する。




「まさ、はる…」

「菜月」

「うわ、なんかドキドキしてきた」

「奇遇じゃな。俺も」



付き合うってこんな感じ?名前呼ばれるだけでなんだか嬉しくってドキドキして。それだけで世界が変わった気がした。
乙女フィルターがかかったみたいに辺り一面キラキラしてて見慣れた仁王の横顔もいつもより格好良く見えて、眩しい。

まだ少し登校時間には早かったために生徒は少なかった。だから立海までの登校路、そこは私と仁王…いや雅治の二人だけの空間になる。
いつもとは違う淡い桃色な雰囲気に胸は自然と高鳴る。恋愛って、朝こうして二人並んで歩くだけで幸せな気持ちになれるんだ。今、なんかすごく満たされている。



「なんか今、めちゃめちゃカップルじゃな。俺ら」

「ふふっ、そうだね」




初々しい二人の朝を盛り上げるかのように小鳥達はコーラスをし、太陽もさんさんと輝き草木もキラキラと綺麗に光っている。
ただフィルターがかかって美化されてるだけかもしれないが、今の私には全て新鮮でキラキラ輝いて見える。ほわりと気持ちまでもが温かい。




(見える世界が、こんなにも変わるなんてちょっと驚きだった)




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管理人も名前呼びには憧れます←
初々しい仁王が書きたかったんです本当は。純情な仁王(笑)


管理人:あいの






あきゅろす。
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