はじまり(恋愛してみたい)
「付き合うってどんな感じだろ?」
はじまりはこんな些細な一言だった。
01.はじまり
(夢みたいな日々の、)
掃除をサボった罰として、私と仁王は二人で寂しくただっ広い理科室を掃除していた。サボったのは仁王だけなのに、「見逃すのも同罪だ」と言われてしまい反論虚しく結局掃除をすることになった。
仁王とは三年間同じクラスですっかり顔なじみ。仁王自身人気が高いからちょっと仲の良い私は女の子たちの敵意の的。別にやましいことがあって仁王と仲良くしてるわけじゃないのに。ただ三年間クラスが同じだからという理由で私を敵対視する子までいる。まったく不条理な話である。
「仁王ー、そっち終わった?」
「おう、完璧じゃ」
こうなったらとことんやってやろうと決めていた私達は隅から隅まできっちりと綺麗に掃除した。角の方に溜まった埃も掃き出し、机に付着した何かの薬品の跡も出来る限り拭いて消した。あと棚の中にある秤やら色々な用具を見栄えがよくなるよう並べて。(まあどうせすぐぐちゃぐちゃになるんだけど)
変な達成感を二人で感じながら、しばしの休憩。時間をかけてとことんやったもんだから予想以上に時間がかかってしまった。どうやら仁王は部活もサボって来たらしい。「真田が怖いぜよ」なんてけらけら笑いながら言っていた。
「お疲れ」
「ああ、お疲れさん」
「時間掛かったね、もう五時だよ」
「けっこう掛かったのう。日も落ちかけとるし」
赤く染まり始めた空を見るのに窓から身を乗り出す。外の新鮮で、ちょっと冷たい風が髪と頬を撫でた。
ふと目に入ったのは手を繋いで歩いている影。私はその影をじっと見つめながらその影が見えなくなるまで窓から身を乗り出し続けていた。不思議に思ったのか仁王はどうした?と隣の窓から身を乗り出した。
「いや、ただいいなあと思って」
「何が?」
「恋、って」
自分にはまだ縁の無いものだとはわかっていても、やはりメルヘンチックな恋愛に憧れてしまうのが女の子というもの。誰でもお姫様になりたくて、誰しもが王子様が迎えに来るのを待っているんだ。
私がそう言った瞬間に仁王は何かを考えているかのように黙り込んだ。仁王は格好良いし人気も高くそれなりにモテるからきっと恋愛経験は豊富だろう。大人なオーラが全身から出ているもん。というか、中三にもなって恋愛経験がゼロというのはおかしな話なのだろうか?
最も、最近の昼休みの主な話題はほぼ彼氏の話。いつキスをしただとか次いつ会うとか。その話をする友達はキラキラ光っていて乙女なピンク色したオーラを纏っている。いつもいつも私だけ蚊帳の外なのだ。
生まれてから今まで好きな人も出来たこともない私は相当恋愛に疎いらしい。興味が無いと言えば嘘になるけれど恋愛感情というものが未だわからないだけ。本当は恋したい。
「どんな感じなんだろ、付き合うって」
「どうじゃろうなあ」
「一度でいいからさ、あんな体験したいよね。卒業するまでに一度位は」
自然とにやける顔とは裏腹に気持ちはなぜか少しずつ落ち込む。夢のまた夢。恋はしたいと思って出来るものじゃない。
「それが今の夢?」
「あはは、今んとこそうかも」
「その夢、叶えてやろうか?」
「…え?」
そんな夢バカらしいから冗談ぽく聞こえるように言ったのに、仁王は笑うどころか真剣な顔してじっと私を見るものだから思わず何も言えなくなる。
「試しに付き合ってみるか?俺と」
NEXT.
はじまりました仁王くん。
どう展開出来るか自分でも楽しみですえへへ。
m(__)m
管理人:あいの
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