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薬売りさんと、
弱点






最近、イライラしている。
いや、私じゃなくて。




「薬売り、もう時間だよ」

「…」






私は時計を見て洗濯物をたたみながら呟く。
いつもならテレビを見ながら(わざと)ゆっくりのろのろはってテレビの電源を切る。リモコンを使えば良いのに使わないのは時間稼ぎだということは見え見えなのだが、さすがにそこまで強いるのは可哀想な気もするので許す事にしていた。

だというのに、最近薬売りはイライラしている、加えて実に奇妙である。






パチン--




そばにあったリモコンの赤いボタンを人差し指をたてて押した。消した。
最近、いつもこうだ。今日も確認のつもりでじっと様子を伺ったのだが、やはりあまりにもおかしい。

そのまますたすたとソファまでいき、腰をかける。
何故かこっちは見ないのだが、腕を口元にあてて何か考え込んでいる風にもみえる。


あと昨日アルが多分じゃれようとして薬売りの背中にタックルした時、…あの見た事もない怒りのオーラとか。おかげでそんな雰囲気を察したアルは私にべっとりとくっついている。洗濯物に毛がつく。やめんか。








「ねえ薬売り。なんか悩み事?」

「…いえ」

「なんか最近変じゃない?お腹痛い?」

「…別に」

「じゃあ…どうしたの」

「……、にゃにも」










なんだ薬売り、冷たいやつめ。
食事はきちんととるけどおいしそうに食べないし、口数も少ないような気がする。何かちょっと寂しい。というか私が何かしたのかとか色々こっちにまで影響が…


ん?









…にゃにも?








たたみかけた洗濯物のシャツをアルにかぶせる。
手足でかくのを横めに四つんばいでそっと、そおっと薬売りに忍び寄る。

薬売りは右手頬杖をしていなく、右手の指を口にいれてなにやら動かしている模様。これは--







薬売りと目が合う。私は立ち上がってにやっと笑う。

逃げ出そうとする薬売りのほっぺたをがっちり掴み、人差し指を器用に口の端側にひっかけ引っ張る。普段あんまり大きく口を開けたりしない薬売りが超笑顔だというつっこみはさておき、見つけました。








「薬売り、まだ乳歯あるね。しかもぐらぐらしてるんでしょ」

「ひへまへん、ひょ」






通りでイライラするわけだ。
ぐらぐらぐらぐらする歯を指でひたすら上下に動かしてとれるのを待ってたんだろう。そんなのまわしてとっちゃえばいいのに、大方怖いってところかな。

薬売りは私の考えを見抜いていた様で、絶対に秘密にしようとしていたのだなふっふっふ。




そのとおりであるよ薬売り!!










「抜くよ!」

「!!!」








私のこの言葉に薬売りの耳がピーンとたつ。今こいつの思考回路のめぐりは尋常じゃない早さだろう。何故か優越感にひたる私の手首を両手でつかみ立ち上がる。口にひっかけていた手ははがれてよろめくが片足を半歩後ろにつきふんばるが、顔を近づけてくる薬売りに驚いて負けた。


そのまま倒れそうになるものの、薬売りが片手をはずして背中にまわす。片腕は手を握り、顔を横切って耳元へ。


そして、「ふぅ」











「うぎゃあぁあああ!!!」









耳にかけられた息がむずかゆくてもはや物理攻撃の域である。へたれこんで手で耳をがしがしかくと、その隙に薬売り、逃走。どこぞの三世よりも巧みなわざだ。

しかし耳ふうを何度も私にしている事を忘れたかな薬売り三世。←(?)

甘い、甘いわ!トラップカードオープン!!←(?)







「アルにゃああああん!!!」

『ウニャアッ!!』

「!!?」










洗濯物にまぎれたアルがその俊敏な運動能力を利用して飛び出し薬売りに飛びかかる。予想だにしなかった薬売りはまんまとじゃれたりないアルの餌食に。私はひとしきり散らばった洗濯物にまみれる薬売りを見下ろす。







「さあ薬売り。ちゃんと抜きましょうね」

「……っ」








モノノ怪より怖いと、顔を覆う。逃走失敗。薬売りは私に捕まった。腹の上でごろごろと幸せそうなアルと対照的に悲しむ薬売りと勝ち誇る頭上の私。












「痛いでしょう」

「ちょっとね」

「…」

「うそうそ、痛くないよ大丈夫」







はい、口あけてと促すと、やや上を向きながらあーんとする。あ、犬歯。

薬売りが指をたてて右奥をさす。下奥歯のすぐとなり。
口の中をのぞきこんで、確認をすると黒い細い糸を取り出す。また口をとじる薬売り。







「どうしても抜くんですか」

「往生際が悪い。抜かないと歯並び悪くなるよ」

「死ぬわけじゃ、あるまいし」

「せっかく今綺麗なんだからもったいないよ。ほら、あーんして、すぐ終わるって」







それでもまだ怖がっているのか、口をあけようとしない薬売りの口はしに指をかけ再び強制開口。ええいじたばたするな!!さすがにそんな大きく反抗はしないものの、いまだ抵抗する力がかかる。無意識だろうけど薬売りの手がひざから浮いたまま固まってる。





「あーけーたーまーま!!」








左手で下あごと鼻下をつかみ、右指を侵入させる。人差し指でぐらぐら度を確認。いやもうこれちょっとひねりゃ抜けるでしょ。

私の指が薬売りにとって深刻でナイーブな部分に到達したのが分かったらしく、目をぎゅっとつぶる。やれやれ、かわいいんだから。


糸はひっかけずともとれるか、と指で器用に歯をつまむ。右、左、右、左、…ぐりぐり、ぐりぐりぐり…



もうとれる、というその時













かぷっ












「ちょ…」

「……」






油断していた、いきなり薬売りの口がとじ、私の指がはさまれる。いやいや、噛んでる噛んでるよ薬売り。

しかし薬売りはいつもの笑みを見せず、かなり顔色が悪い。そしてすぐに鼻からすーすーと酸素の出入りが行われて、私はハッとした。





「あ、ごめん息できなかったのね」








あやうく歯だけじゃなく魂まで抜き取るところだったらしい。噛まれている指は痛くないけど、このまま指を出すと一度核心をいじくってる分、恐怖も倍増しているだろうし、一回でとれなかったから再び侵入を許してもらうのは至難の業っぽい。

息をする薬売りをよそにそんな考えをめぐらし、口内に残る指を使ってその核心をまたつか---






「!」















いや…




驚いたのは、私である






指にあたる生暖かいやわらかいもの。舌なんだろうけど、この状況下でもすでに薬売りはぐらぐらを触ろうと舌を動かしてたらしい。あたると反射的に舐められて、それが、なんか、ちょっとやらしくて









「も、もおお!!!」





そんな気持ちを振り払おうとついいつもの勢いで片方の手で薬売りを平手打ちした。






























「ねえ薬売り。なんか悩み事?」

「…いえ」

「なんか最近変じゃない?お腹痛い?」

「…別に」







最近薬売りの様子がおかしい。

歯は無事に、『無事に』抜けたはずなのに、今度は何事だろう。テレビは普通に見るしご飯も普通に食べるしアルとも普通に遊ぶが、私に対する扱いが少し冷たかった。







「じゃあ…どうしたの」



「……、アル」








『ウニャア!!』








飛び掛ってくるアルに、私は奇声をあげる。
お気づきの方もそりゃいらっしゃると思いますですはい。薬売りは怒っていますですはい。何故か


腹の上にのるアル、動けず、頭上の薬売りを見る。







「く…く、薬売りさぁん…一体何を…?」

「ここ数日、どんな仕返しをするか考えていたんですがね。……おっと、逃がしません、よ」








がっしりと手首をつかまれる。腹の上に薬売り追加。
そのまま下から上へ顔がなぞりあがってきて











「ふう」


「うぎゃああぁあああ!!!」











恩を仇で返す?

一体何のことやらと、薬売りはさも嬉しそうに笑った。






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