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薬売りさんと、
映画鑑賞






ある日仕事が終わって家に帰ると、薬売りがテレビを見ていた。







「おかえりなさい」

「あれ?今日何かテレビ予約してたっけ…」

「いいえ、電源を入れて、円盤を入れてみました」

「……円盤?」







薬売りが箱を渡してくる。ぱっとみてそれがDVDの箱だと言う事が分かり、あぁ、と零してそのまま机に置く。







「ついにDVDデッキまで使えるようになったかぁ」

「ずっと名無しさんのやり方を見ていましたので」





上着を脱いで、薬売りの横に座る。何の映像が映っているのか一瞬分からなかった。真っ暗な画面、ちかちか光がしたかと思うと、いきなり逃げ惑う女性がうつった。恐怖に顔をゆがめ後ろを気にしながら必死に走っている。私が持ってるDVDにこんなものあったかなぁと思いつつ画面から目を離さずにいると、いきなりその女性が凄まじい形相をした何かにつかまり、暗転そして悲鳴声。








「うるさいですよ」




悲鳴声は、テレビ画面と私から。

即座にDVDの停止ボタンを連打する。止まった事を確認すると息をはいてカーペットに転がり込んだ。







「何故止めるのです」

「こ、このDVDどっからだしてきたの!?」

「そこの棚の奥のテープでぐるぐる巻きにされた箱の中からです」








薬売りは淡々と答えた。

これは依然プレゼントと称して友人から嫌がらせで貰ったホラー映画。さっき机においた箱を確認すると、表紙は友人に細工されてとても可愛い明るいキャッチなプリントがされているが、裏返すとそこには大きな目がこちらをぎょろり。貰った当初の私はそれを見るや否や箱に押し込みテープで封印していたはずなのに。







「何でだしてくるのよ薬売り!!せっかく存在忘れてたのにぃぃッッ!!」

「存在を忘れられてずっと閉じ込められている方が怖いじゃぁありませんか。呪われますよ」

「やめろっ!の、呪いとか言うな!!」






私が悶えてるにも関わらずいつの間にかリモコンを持っていた薬売りが再び再生を押す。止まっていたデッキは機械音を響かせて再び続きの映像が画面にうつる。






「…!?何ちゃっかり再生してるんだ!!それに何でリモコン操作出来てるんだっ!!」

「名無しさんの操作を毎日見てましたから」

「やめてぇぇ止めてぇえぇええぇっ!!!やだやだ怖いのやだぁぁぁっ!!トイレ行けない!!私行けないよ!!」

「だったら名無しさんの部屋に戻ればいいじゃないですか」

「今の映像見て一人部屋におれるか馬鹿ぁああっ!!」








多分いつかやった時代劇を見ていた薬売りに嫌がらせした事根に持ってる。薬売りはリモコンを着物の袖にしまって、消す事が出来ない。直接ボタンを消しにテレビに近付く勇気は私にはない。



最近反抗し始めた薬売り、可愛くないぞ畜生!!







「名無しさんは怖いのが苦手なんですね」







クス、と薬売りが顎に手をおいて私を見た。
何故だか異様に腹が立つ。とは言え私は可愛いツンデレの様にべ、別に怖くなんかないんだからね!≠ニは言えず。







「怖いわっ!!(カッ)」





と薬売りに激怒した。

薬売りは笑って自分の横に座るようカーペットを軽く叩いた。うっ、と戸惑いつつも、黙って薬売りの横に座る。思い切りぎゅっと目をつむって、視界をシャットダウンした。







「ほほう、これは面白い」

「……っ」

「見て下さい名無しさん、髪の長い女性がほら」

「いっ言うなっ!!想像しちゃうでしょうがっ!!」







視界は防げども耳は防げず、
私は知らない間に薬売りの腕を必死に握ってただ恐怖が過ぎるのを待った。

たまに目をあけて横にちゃんと薬売りがいるか確認すると、どうしても薬売りと目があってしまった。

その度に、私を見て笑う。







「面倒な人ですね、名無しさんは」







ふわりとした浮遊感がしたと目が反射的に開く。見えた時には私は薬売りの胸の中。

あぐらをかいた薬売りの膝の上に乗る様に、赤子の様に抱かれていた。






「いや此処までしなくても…恥ずかしいよ」

「では私はちょっとトイレに」






そう言って手を離した薬売りが立ち上がろうとする。
俊敏に着物の襟もとを引っ張り阻止する。








「一人にするなっ!!」







もう泣きそう。

楽しがられてるのは分かっていても、私は怒るに怒れなかった。








「はい、はい」









そこから優しく頭を撫でられて目を閉じた。






気がつくと映画はとっくに終わっていて、私はゆすられて起きた事が分かった。ぼうっとした頭で薬売りを見上げると、おはようございますと笑っていた。


私はおはようとむすっとした顔で答えると、すぐに薬売りから離れた。








「途中から爆睡でしたね。よだれ垂れてましたよ」

「うそっ!!?」

「嘘」








今すぐはりせんで叩きたい衝動に駆られた。ふつふつと湧く怒りに薬売りの名前を強く呼ぶと、薬売りが嬉しそうに袖から何かを取り出す。








「次はこれ、見ましょう」

「……そ、それは封印してあった友人から貰った心霊写真特集…っ何処から!!」

「すいっちおん」

「いやだぁあああぁあっ!!!」















翌日、薬売りにテレビ禁止令、発動。




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あきゅろす。
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