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崎谷家の日常
3
ノックをしてゆっくりと扉を開けると、小柄な男がソファでくつろいでいた。

「あれ。びっくりした。なんで鈴村君がここに・・?」
こいつもまた白々しい。
俺は奴の家族なんだから、この家にいても不思議ではないだろうに。
俺なんか眼中に無いことをアピールしているつもりだろうが、俺の名前を知ってる時点で台無しだ。
それとも嫌味か?
どっちにしても下手すぎて軽くイラつく。

「あっそうか。そうだよね。兄弟なんだから。ごめんね。
ご両親が今海外にいるって言ってたから、誰もいないんだと思ってた。」
俺のわずかな反応に満足したのか、今気づいたかのように謝ってくる。
男とは思えない可愛らしい顔で、杉崎静がにっこり笑いながら右腕を頭に当てる。
その動きで着ているバスローブの合わせ目がはだけるように。

あの学校に通ってる人間に恥じらいは無いのか?
高校から編入してもう二年目になるが、かなりオープンな奴ばかり。
気の合う友人たちも例に漏れず、リアルな話ばかり俺に聞かせる。
男同士の恋愛に今は偏見なんて無いが、少しは控えて欲しいものだ。

俺の目線に気づいたように、小さな悲鳴を上げて杉崎は見せ付けてた胸元を隠した。
・・・今「きゃっ」って言いました?
いくら少女顔でも、あんた男ですよ。
なんか少しうんざりしてきた。

「ごめんね。こんな格好で。学校から直接ここに連れられて来ちゃったから。」
頬を染めて俯いてる仕草を見たら、あの学校の毒に染まった奴らはどうするんだろうか。
襲い掛かるのか?
それを俺がすれば、崎谷はかなり驚くだろうな。
ちょっと面白いかもしれないが、女の子大好きな俺には無理。
早々に諦めることにした。

だから俺は。
杉崎の悪意にはまるで気づかないふりをして、遠慮がちに話しかけた。
「俺の服でよかったら貸そうか?大きいとは思うけど、崎谷のよりマシだろ。」
ようやく出した、俺の第一声。
杉崎のように頬を染める技は持っていないが、行き場が無いように目線をさまよわせてみせる。
「・・・・。」
うまい事この言葉を好意に受け取ってくれれば、あとはこいつに任せられる。

俺は利用できるぞ杉崎。
崎谷との恋愛駆け引きに使ってもいい。
崎谷の近くにいる俺が目障りなら、俺を落として陥れてもいい。

「・・・どうした?もしかして乱暴されたのか?」
「そんなこと・・。誤解してるよ。」
「そっか・・。」
俺は追い討ちをかけるべく、複雑な顔でほっと息を吐いてみせた。

「心配してくれてたの?鈴村君・・。」
「まぁ。一応ね・・。そんなの見せられたらね。」
切なめに微笑しながら、杉崎の今は隠してある胸元を指差した。
俺が示したのは、バスローブの中にあった、たっくさんのキスマークの事だ。
とたんに赤面した杉崎が身を縮める。
おお。今度はリアル。
杉崎の腹黒さを知らなければ、騙されていたかも。

「僕・・。もっと鈴村君のこと知りたいな・・。」
乗ってくれた!
俺は内心ガッツポーズを出した。
「あ!変な意味じゃなくて・・その・・彼の兄弟なんだし・・ね?」
隙なく自分の立ち位置を示してきたが、俺は本心からの嬉しそうな反応を返す。

今、こいつの中では俺の利用価値を計算しているはず。
がんばれよ杉崎。

今日一日で決着はつかないが、もうあとは策に溺れるのを待つだけ。

どんなにがんばっても、俺はお前には落ちないし。
その行動が露見すれば、逆にお前は崎谷を裏切ることになる。

お前のプライドはそれ程傷つかないだろ?
お前が崎谷を捨てるんだ。



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あきゅろす。
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