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あなたの傍に
No.6


船室に閉じ込められたあたし達。
しばらくしてティアが意識を取り戻し、その少し後に何故かルークを呼ぶ男性の声が聞こえてきた。


『ルーク……我が声に応えよ……!ルーク……!』


な、何……!?
一体、誰なの……!?


ジェイドとティアの様子を窺ってみても、2人には聞こえていないようだった。
すると、ルークが苦しそうな様子でうなされ始めた。


「ティア、ルークを起こしてあげて」
「はい」


ティアがルークの名前を何度か呼んだ後、ルークは目を覚ました。


「……良かった。うなされていたから」
「……ここは……」
「タルタロスの船室です」
「そうか……確か魔物が襲って来て……」


そこで思い出したのか、ルークは頭を抱えて震えだした。


「さて。そろそろここを脱出して、イオン様を助け出さなければ」
「イオン様はどこかに連れて行かれたみたいだったわね」
「神託の盾達の話を漏れ聞くと、タルタロスへ戻って来るようですね。そこを待ち伏せて救出しましょう」
「お、おい!そんなことしたらまた戦いになるぞ!」


ジェイドとあたしが話しているのを聞いたルークが慌てたように言った。


「それがどうしたの?」
「また人を殺しちまうかもしれねぇって言ってんだよ」
「……それも仕方ないわ。殺らなければ殺られるもの」


静かにそう言うティアに、ルークは信じられないという様子で息を飲んだ。


「な……何言ってんだ……!人の命をなんだと思って……!」
「……そうね。人の命は大切なものだわ。でも、今はそうは言ってられないのよ」
「このまま大人しくしていれば、戦争が始まって、より多くの人々が死にます」
「今はここが私達の戦場よ。戦場に正義も悪も無いわ。生か死か、ただそれだけ」


あたし、ジェイド、ティアがルークを諭すように話す。
それをルークは表情を変えずに黙って聞いていた。


「普通に暮らしていても、魔物や盗賊から襲われる危険があるの」
「だから、力の無い人々は傭兵を雇ったり、身を寄せ合って辻馬車で移動しているのよ」
「戦える力のあるものは子供でも戦うことがあるわ。……そうしなければ生きていけないから」
「そんなの俺には関係ない!俺はそんなこと知らなかったし、好きでここに来た訳じゃねぇ!」


あたしとティアが交互に話していると、ルークが叫んだ。


「驚きましたね。どんな環境で育てば、この状況を知らずに済むと言うのか……」
「マルクトに誘拐されかかって以来、身を守る為、お屋敷に軟禁されていたそうですから」


この世界のことを知らなくて当然……ってことね……


「仕方ねぇだろ!ガキの頃の記憶もねぇんだ!俺は何も知らないんだ!」
「確かにこんなことになったのは私の責任だわ。だから私が必ず貴方を家まで送り届けます」


叫ぶルークに、ティアは静かな表情で言った。


「その代わり、足を引っ張らないで。戦う気が無いなら、貴方は足手まといになる」
「た、戦わないなんて言ってない!……人を殺したくないだけだ」
「同じことよ。今戦うということは、タルタロスを奪った『人間』と戦うということ」


矛盾したことを言うルークに、あたしは少し苛立って言い聞かせるように言った。


「敵を殺したくないと言うなら、大人しく後ろに隠れてなさい」
「……なるべく戦わないようにしようって言ってるだけだ。……俺だって、死にたくない」
「あたしだって……!あたしだって出来れば殺したくないわよ……!でも、殺すしかないのよ……!」
「ソフィア」


声を詰まらせるあたしに、ジェイドが落ち着くようにという風にあたしの肩に手を置いた。


「結局戦うんですね?戦力に数えますよ」
「戦うって言ってんだろ」
「結構。では、ソフィア。お願いします」
「……分かったわ」


ジェイドに頼まれたあたしは、檻に向かって立ち、音素フォニムを集めた。
そしてそれを檻に当て、檻を破壊した。


「上出来です」


そう言ってジェイドはあたしの頭にぽんっと手を乗っけて優しく微笑んでくれた。
そして彼は伝声管に走っていった。


死霊使いネクロマンサーの名によって命じる!作戦名『骸狩り』始動せよ!」


ジェイドが命じると、電気も動力も停止し、タルタロスは非常停止した。


「あらかじめ登録してある、タルタロスの非常停止機構です。復旧にはしばらく掛かる筈」
「すげぇ……」
「どこへ向かいますか?」
「左舷ハッチへ。非常停止した場合、あそこしか開かなくなります」
「イオン様を連れた神託の盾オラクル兵も左舷ハッチから入ろうとする筈だわ」
「でも、俺達の武器、取り上げられてるぜ」
「近くに置いてあると思うわ。探してみましょう」


ティアの言う通り、取り上げられていた武器は近くの部屋にあった。
見張りは復旧の作業の為か、その場には居なかった。
そうして武器を取り戻したあたし達は、イオン様を救出する為に左舷ハッチへ向かった。

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あきゅろす。
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