あなたの傍に
No.4
廊下に出てジェイドにさっきのことについてあれやこれやと言っていると、イオン様以外のみんながこちらに来ていた。
すると、警笛が廊下に響き渡った。
「敵襲?」
「ルーク様っ、どうしよう!」
アニスがここぞとばかりにルークに抱きついた。
それをティアが冷めた目で見ていたのは黙っていよう。
「艦橋!どうした?」
ジェイドがすかさず伝声管で艦橋に居る艦長に状況の確認を取る。
「前方20キロ地点上空に、グリフィンの大集団です!総数は不明!約10分後に接触します!師団長、主砲一斉砲撃の許可を願います!」
グリフィンの集団ですって……!?
普段、集団行動をとらない魔物がどうして……
「艦長はキミだ。艦のことは一任する」
「了解!前方20キロに魔物の大群を確認!総員、第一戦闘配備につけ!繰り返す!総員、第一戦闘配備につけ!」
ジェイドに任された艦長は、部下全員に指示を出した。
「3人共。船室に戻りなさい」
「なんだ?魔物が襲って来たぐらいで……」
「グリフィンは単独行動をとる種族なの。普段と違う行動の魔物は危険だわ」
訳が分からないというようなルークに、ティアがそう説明する。
すると、タルタロスが激しく揺れた。
「どうした?」
「グリフィンからライガが降下!艦体に張り付き、攻撃を加えています!機関部が……うわぁぁ!?」
「っ!!」
「艦橋!応答せよ、艦橋!!」
ジェイドがそう命令しても、聞こえてくるのは部下達の悲鳴と魔物の声だけだった。
「嘘でしょ……?どうして……どうして、こんな……っ!」
「ソフィア……」
「おい、ライガってチーグルんとこで倒したあの魔物だよな」
「はいですの……」
「冗談じゃねぇっ!あんな魔物がうじゃうじゃ来てんのかよ!こんな陸艦に乗ってたら死んじまう!俺は降りるからな!」
自分の身の危険を感じたのか、ルークは走り出した。
「待って!今外に出たら危険よ!」
「その通りだ」
ティアが止めようとすると、ルークの目の前に大鎌を持った大男がルークを壁に打ちつけた。
「ご主人様っ!?」
「雷雲よ……我が刃となりて敵を貫け!サンダーブレード!!」
ジェイドがすかさず詠唱し、譜術を発動させた。
だが、大男はそれを鎌で弾き返し、そのまま鎌をルークの首元に持っていった。
「……流石だな。だが、ここから先は大人しくしてもらおうか。マルクト帝国軍第三師団師団長、ジェイド・カーティス大佐。いや、死霊使いジェイド」
「死霊使いジェイド……!貴方が……!?」
ジェイドの二つ名を聞いたティアが驚いた表情でジェイドを見つめた。
「これはこれは。私も随分と有名になったものですね」
「戦乱の度に骸を漁るお前の噂、世界に遍く轟いているようだな」
「貴方ほどではありませんよ。神託の盾騎士団六神将『黒獅子ラルゴ』」
「黒獅子ラルゴ!貴方の目的は何!?イオン様を連れ戻しに!?それとも、あたし達の任務の妨害!?」
あたしは素早くジェイドの隣りに行き、杖を敵意と共にラルゴに向けた。
「流石は守護女神ソフィア。良い洞察力をお持ちだ。イオン様を渡してもらおうか」
「イオン様を渡す訳にはいきませんね」
「おっと!この坊主の首、飛ばされたくなかったら動くなよ」
あたしとジェイドの後ろに居るティアとアニスが動いたのを見て、ラルゴはルークの首元にあてていた鎌を更に近付けた。
まずいわね……この状況じゃ譜術が使えない……
「死霊使いジェイド、守護女神ソフィア。お前達を自由にすると色々と面倒なのでな」
「貴方1人で私とソフィアを殺せるとでも?」
「お前達の譜術を封じればな」
ラルゴは箱状の物を取り出し、それをあたしとジェイドの頭上に放り投げた。
「ソフィア!」
「きゃっ!?」
ラルゴが投げた物が発動する直前、ジェイドがあたしを突き飛ばした。
「まさか、封印術!?」
「守護女神を庇ったか……まあ良い」
「……ぐぅ……っ」
「ジェイドっ!」
ジェイドが封印術を受けて動けないでいるのを良いことに、ラルゴは鎌を構えてジェイドに襲い掛かった。
それをあたしが素早く普段は抜かない細剣を抜いて鎌を受け止めた。
「守護女神はあまり剣を抜くことはないと聞いたが……」
「ええ。必要な時だけ、抜くと決めているから」
「ほう。ではその腕前、見せてもらおうか」
「悪いわね。剣術は護身にしか覚えてないの。あたし、譜術士だから」
そう言いながらあたしは音素を取り込み、足元に譜陣を浮かび上がらせた。
「何っ!?」
「あの状態で詠唱するなんて……!」
「焔の檻よ!イグニートプリズン!!」
驚くラルゴとティアをよそに、あたしは詠唱短縮で譜術を発動させた。
「ぐあっ!!」
「アニス!イオン様を!」
「はいっ!」
「落ち合う場所は分かりますね!」
「大丈夫っ!」
隙を見たジェイドがアニスに指示し、アニスはあたしとラルゴの横を走って通り過ぎて行った。
「い、行かすか……っ!」
「トゥエ レィ ズェ クロア リュオ トゥエ ズェ」
「譜歌か……!」
「はああっ!!」
「うぐっ!!」
あたしの譜術を受けてなお立ち上がろうとしたラルゴにティアが譜歌を詠い、あたしが剣を突き刺した。
剣を引き抜くと、ラルゴはその場に倒れて動かなくなった。
「…………」
「大丈夫ですか、ソフィア」
「ええ。大丈夫よ」
あたしは剣に付いた血を振り払い、鞘に戻した。
やっぱり、長年軍人やってても人を殺すのは慣れないわね……
「では、イオン様はアニスに任せて、我々は艦橋を奪還しましょうか」
「でも大佐は封印術で譜術を封じられたんじゃ……」
「ええ。これを完全に解くには数ヶ月以上掛かるでしょう。でも貴女の譜歌とルークの剣術、そしてソフィアの譜術があればタルタロス奪還も可能です」
「分かりました。行きましょう、ルーク」
そうティアが声を掛けたが、ルークはうわの空で返事をしなかった。
「ルーク!」
「あ、ああ……」
2度目でようやく気付いたのか、ルークは返事をして立ち上がった。
そうしてあたし達はタルタロスを奪還する為、艦橋へ向かった。
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