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=入口=

夢のような一日だった
貴女と一言の会話も無いなんて
なんて素敵な夢だろう

色の着いた孤独のような風が冷たい
もう冬なのか、振り返ったら何を見よう
カラカラと転がる空き缶に
空ろに合わせた焦点が歪んでいる
貴女は何故その様に在るのか考えてみる
意味と形を成さない疑問符が浮かび
答えが叫びだしそうに騒いだ
ある日には僕がその様に在ったのに、と。

深呼吸を繰り返して
殺伐とした風景を流して
暖房でせりあがった欲望を冷ます
溜め息を隠すように乾燥した唇から
どうか震えませんように、と願う
吐き出された煙草の白い闇が渦巻いて
貴女と僕の距離を正確に計っていた…

ある時は日だまりに似た何かが漂って
何も無いはずの心臓の位置が
三センチ程跳ね上がっては沈んでいた
気付くと沈んだ場所に納まっているのに
高い位置ばかりが鮮やかに目につく
僕はただそれを名付けるのが億劫で
ただ貴女が黙るのを待っていた
貴女の心臓の位置を気にしながら。

夢のような一日だった
貴女と一度も視線を交わさないなんて
なんて素敵な夢だろう

目が覚めたら泣いているかもしれない
けれどもそれは理由の無い涙で
(名前を付けなかったから?)
自嘲したあとで本当に一瞬だけ気付く
そんな現実感の無い何かに縋らなくても
貴女はいつか僕を赦せなくなる
喪失することは一つ、無関係だけで
僕は貴女のかわりに喋り続けて
だから夢のような一日は終わる。

そしてこんなふうに、
貴女が傷つく日は来ない。




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あきゅろす。
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