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=入口=
浪間に馳せて
長雨に汚れたヨットの船首が
海洋を見つめながら寂しがった
私の思考がそこで停滞して
理由といえばそれだけだなぞ
私の船は怒るだろうか

ウミネコに死んだ魚をやると
呼びもしないカラスと飛び交う
捩れた涙を喩えようとして
俯いた肩がそっと揺れた
死んで、ポッと呟く声だけが鮮明な朝

九割の夢の国を
足場のなさ故だけで海と呼んだ
私は此処を泳げないので
私の国にすべくヨットを買った
小さなヨットは鉛のオモチャで
手を放すと沈む

喧嘩には負けない猫が愛想鳴く
死んだ魚をやると怒る
白と黒の鳥がギャアギャア騒ぎ
ボスは威厳虚しく抱かれ安心を得て
缶詰を転がしては怒り
孤独に気付いては怒る

雨がすっかりカーテン気取りで
細く細くと細さを競っている
慎重に足を降ろしても
どういうわけか水の上は歩けない
臍が隠れた具合を見て
鉛のオモチャをそうっ、と浮かべた

返した浪間に刹那は浮かび
喜びを称える泡を含んで
綺麗に船尾から船首へと沈んでいった

暗い足下は砂の感触しか伝えない
猫が岸を恋しがって怯えている
夢の国に今は居るのに
現実感のない溜め息が零れる
私は鉛の船を捜さなくてはと思いながら
手を放した後悔の無い薄情さにうろたえた

死んで、ポッと呟く声を聴く
私は猫を岸に離し
ウミネコもカラスもどの鳥とも
目を合わさないよう気をつけながら
刹那を捜しに沖合を目指す
厚く垂れ籠めていた雲が切れ
私の躰も喜びを称える泡を含んだ




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あきゅろす。
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