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いつわりびと
君を想う(控岩)
「「「姫さま、お誕生日おめでとうございまーーす!!!!」」」

ここは旅館の一室。
空達は大部屋を貸し切って、岩清の誕生日のお祝いをしていた。
「皆様、妾のためにありがとねん。わざわざ旅館にしなくてもよろしかったのにん・・・。」
「ええんてええんて。せっかくの誕生日やろ、こういうのはちゃんとやらなあかんとな。」
「じゃあ、みんなで姫さんにおいわいわたそうぜー!」
それぞれの手から、岩清に贈り物が渡された。
「俺と蝶左からは軟膏な。俺が特別に調合したから、乾燥肌によく効くぜ。蝶左は薬草とりを手伝ってくれたんだ。」
「私とみなもちゃんからは羽織ですわ。姫様いつも寒そうですので・・・。」
「この石は〜ぽちと九十九さんからで〜す。川で見つけたんですよ〜。」
「ワシと烏頭目からはこれや〜。」

そう言って、空が持ってきたのは、山のように積まれたお団子。

「空様・・・・これは・・・・。」
「空さん・・・・・。」
「・・・・・・。」

驚いている岩清以外の女子たちが非難の目で空を見つめた。

しかし空は気づいていない。

「ええやろ〜これ!昨日団子屋で大食い競争があってな、烏頭目が勝ってもろてん。」
「俺頑張ったんだぜ〜すごいだろ〜!」
「空様ん・・・気持ちは嬉しいのだけど、妾1人では食べきれないわん。だからこれはみんなでいただきましょう。ねえ、たぬたん?」

ぽちは先程からよだれを垂らしながら団子を見つめていた。

「お団子食べたいでーす!!」

岩清の言葉にぱあっと顔を輝かせる。

「ほな、みんなで食おかー!」

烏頭目と空とぽちが団子に飛びつく。
「こ、こら!そんな朝から団子ばっか食ったら駄目だろ!ぐはっ」
「小姑がうるさいねん!食いたいもんを食って何が悪いんやー!」
空たちがドタバタしているとき、岩清は1人の男がいないことに気付いた。
「あらん・・・・にゃんにゃんはどこへ行ったのかしらん?」
「あー猫目なら朝、どこか行くって言って出かけたワケ。ま、晩飯までには帰ってくるんじゃねーの?」
「今日は私とみなもちゃんが腕をふるってご馳走を作りますわね!旅館の人からも台所を使う許可をとりましたし。」
みんなあまり控の心配はしていないようであった。
岩清も、そのうち帰ってくるだろうと思い、待つことにした。
しかし、控は帰ってこない。
既に日も沈みかけていた。
岩清はだんだん暮れていく夕焼け空を縁側から眺めていた。
(にゃんにゃん・・・・どこへ行ってしまったのかしらん・・・・。)

今日は妾の誕生日なのに・・・・
空が暗くなっていくのと同時に、岩清の心も悲しみの色が濃くなってきた。
そして寒くなってきたので、閨たちがくれた羽織を羽織った。
今日、みんなから祝ってもらったのは嬉しかったけど、
やっぱり、にゃんにゃんに1番に祝ってもらいたかったわん・・・・
こんなことを思う自分が不思議だったが、これが正直な気持ちだ。
自分の誕生日なんて、忘れてどこかへ行ってしまったのだろうか。不安が渦巻いた。
突然、近くの茂みから音がした。
うつむいていた顔を上げるとそこには――――――――

「・・・・姫さん?」

「・・・・にゃんにゃん。」
「こんなところで何してるのー?風邪ひくよ?」
「今までどこに・・・。」
「ん?俺はちょっと、探し物をねー。その羽織、よく似合ってるよ。」

そして控はにかっと笑った。
その瞬間、岩清の中で何かがはじけた気がした。
頬に熱いものが伝わる。

「えっちょっ姫さん!何で泣くの!?」
「・・・・何でかしらん。」

自分でもわからなかった。

でも、おそらく・・・・

「あなたに会いたかったからだわん・・・・」

今、どこにいて、何を考えていて、
時々見せる悲しげな瞳は誰を想っているのか
1つ、雫が落ちるとまたひとつ、ふたつと落ちた。
泣き顔を見られたくなくて、扇子で顔を隠した。
控が近寄ってくる気配がした。

「・・・・姫さん、泣かないで。俺はさ、これを採りに行っていたんだ。」

控が手から出したものは、花だった。
岩清が見たことのない花。
透き通るような脆さを感じさせる白の花びらに、黄色のおしべが映えていた。

「・・・・?これは、何ていう花なのん?」
「これはね、セツブンソウ、っていうんだ。」

セツブンソウ・・・・

「セツブンソウはね、早春、今頃に咲く花なんだけど開花時期がとても短いんだ。咲いた後はあっというまに眠りにつく。だから春の儚い命、なんて言われているんだ。」

岩清は黙って話を聞いた。控も話し続けた。

「あんまり綺麗だからこれを採りたがる人間はいっぱいいて・・・・だから数も少ない。俺ね、どうしてもこの花を姫さんに贈りたかったんだ。」
「妾に・・・・?」
「この花は姫さんの誕生花なんだ。」

控は岩清の頬から落ちそうな雫を指で掬い取った。

「この花の花言葉は人間嫌いっていう悲しい言葉もあるんだけど、ほかにも微笑みっていう意味もあるんだ。」

そして、岩清の髪に花を挿した。
「俺、いつも姫さんには笑顔でいてほしい。だから・・・泣かないで?」
・・・・にゃんにゃん・・・・・

「ほ・・・・・」
「?」
「おほほほほほほほほほ!にゃんにゃん、それは妾を口説いているのかしらん?」
「お、元気になったじゃん。」
「あらん、妾はいつも元気よん。女子は笑顔が大切だものん。」

さっきまでの悲しい気分はどこかへ行ってしまったようだ。
ただ今は、控が自分のために贈り物をしてくれたことが嬉しかった。
控が笑顔でいてくれと言ったのだから、笑顔でいなければならない。
そう思った。

「それにしても、にゃんにゃん、服がボロボロじゃないのん。」
「あー結構山歩いたからねー。それより俺、お腹空いたよー。」
「今頃、ねーやんたちがお食事を作って待ってるわん。今日はごちそうよん。」
「ごちそう!?やったー嬉しいなー。」
「ほほほ、じゃあ早くみんなのところへ戻りましょん。」

今日は、妾の誕生日。
初めて、妾の大切な人が贈り物をくれた日。

「あ、そういえば言い忘れてたけど・・・。」
「何かしらん?」
「姫さん、お誕生日おめでとう。」

ああ、

妾は今、この世で1番の幸せ者ねん。

セツブンソウが、月光に照らされて艶やかに輝いていた。




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