[携帯モード] [URL送信]

applauded
NICE GUY!!編
期間限定拍手/NICE GUY!!編(逃亡者×ナイス・セクシャルY)



『confidence』



あの少女は何処へ消えた?


気が付くと私は一人で古い屋敷の前に立っていた。落ちぶれた街の影に隠れていた私をここまで連れ出したのは、花売りの少女だったのに。

断片的に思い出すのは真紅の薔薇の香しさと、二日月の弱い光の中でも輝いた少女の瞳。あの薔薇を差し出された途端、今までにない程の渇望感が身体中を駆け巡った。花弁をもぎ取って全てを奪い、自分だけのものにしてしまいたくなる様な。

私は屋敷の扉を軽く叩いた。灯りも見えず人が住んでいる気配はないが、もしかしたらここが少女の家なのかもしれない。だが中からは何の返答もなく、力を入れて押すと簡単に扉が開いた。

蔦の絡まった外壁の鬱蒼とした感じとは異なり、窓から射し込む月の光は内部の手入れされた空間を照らし出している。居室へと続くであろう扉を抜けると、少ないながらも品の良い調度品を設えた部屋があった。やはり誰か住んでいるのか。ならば見つかる前に早く立ち去らねば危険だ。

引き返そうと振り向いたその時、私は出会ってしまった。ここの主に。

出会った瞬間、静かに降り注いでいた月光が満月の夜の様に煌めきだし、姿をはっきりと映し出す。

息を呑む艶やかさだった。
漆黒の髪を惜しげもなく肩に流し、細い身体に纏う着衣は赤く鈍い光沢がある。左半身を包む見慣れない形の白い衣服は、黒髪と相俟って東洋的な印象を抱かせた。体付きと上背がある事から男だろうと認識はしたが、あまりにも端正な顔立ちと闇の中でも白く浮かび上がる雪肌は、この者が男であるのか女であるのか曖昧にさせる。

彼は盃を右手に持ち、ゆっくりと私に近付いてくる。瞳は私を捕らえて離さないまま。
私はまた渇望感に襲われる。彼の眼差しは、あの少女のものと全く同じだった。
……そうか、少女を操り私をここへ呼んだのは彼だったのか。
そう理解した刹那、心臓がどくりと脈打つ。彼を――この花を手折り、全てを手に入れたい。

欲に支配された私は、彼の視線が右手の盃へ移ってしまったことにさえ苛立ちを覚えた。私だけを見ていて欲しい。
私は盃を強引に取ろうとした。急に動いた私にはっとした彼は後ろに引いたが避けきれず、盃に注がれた薄紫の透明な液体を零してしまう。盃からの滴を左手で受け止めた彼は、己の唇を寄せていく。

だが私はそれを許さなかった。白い左手を掴み、冷たい手のひらに零れた液体を彼の代わりに口へ含む。街で少女に差し出された薔薇の香りが、喉へ送った薄紫の液体から……いや、彼の身体から放たれていた。

「……っ…」

盃を床に落とす音と吐息が聴こえる。華奢な左の手首に口づけをしながら見やれば、目を細めて恍惚とした表情をする彼の視線と絡んだ。そうだ、そうやって私だけを見ていればいい。
今度は指先に口づけしようとすると、彼の長い爪が私の頬を強く掻いた。血が滲む頬に冷たい右手で触れ、彼は傷口を柔らかな舌で舐め始める。

抱き締めた身体や掴んだままの左手からは体温など感じ取れないのに、頬にある炎の様な舌の熱さに私は驚き、身体を離した。
はあっ、と息を漏らした彼の薄く開いた唇から覗く舌の先には、私の赤い血が。

離れることで薔薇の香りが遠ざかり、一瞬正気に戻った私は自分自身に警告する。
彼に近付いてはいけない。何かが違う。目の前に立つのは人間ではなく、恐らくあやかしの類だ。でなければこんなに美しい筈が…

しかし、彼が再び身体を寄せてきた時には、思考は薔薇の香りで霞み、腰に腕を回し抱き締めてしまった。

「君は……何者だ?」

沸き上がる官能的な衝動を抑えて私は問う。彼は何も言わずにアルカイックスマイルを湛えるだけ。

例え何者であろうと、どうしても彼が欲しい。

私は彼の唇を奪う。甘く熱い舌を絡ませると、それに呼応するかの如く、私の背を彼の左手が撫で上げた。





++++++++++

拍手ありがとうございます!

宙組観劇記念の期間限定拍手お礼です。

この後、曲がジャーン!ってなって逃亡者はナイス・セクシャルYに吸血されてしまう感じです。すみません、廃墟の設定があるのにそれすっ飛ばしました…笑

更新頑張ります!

またのお越しを心よりお待ちしております。

(2010/10/31〜2011/01/25)

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!