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シャングリラ編・その2(10000hitリクエスト)
10000hitリクエスト・雹×空(「シャングリラ―水之城―」)





例えば、この時代に生まれてきた意味や、暗い空の中に点在する僅かな光の隙間や、人が寝静まった後優しく降る雨の音色がいかに慕わしいものであるか、今の私には全て理解出来る。




「雹、何故一人で行った」

背後から声がした。いつからこの場所で私を待っていたのだろうか。振り向いて視界に入るのは、私が命を懸けて守ると自分の心に深く刻んだ、美しい人の姿。しかし、私を迎える言葉と雰囲気はその瞳の如く冷たい色を湛えている。

「…起きていたのですか」

私は自然と右腕を後ろに隠し、空と対する。
城の中とは言え、この通路は互いに近付かぬ限り相手の表情をはっきりと知ることは不可能な程暗い。なのにここで私を待ち続けていた空は、苛立ちを隠せない様子で壁に背を凭れ腕を組んだまま話し始めた。

「その任務は明日、俺とお前で行くことになっていた筈だ」

「氷に命じられたのは私だけです」

「だが俺は、お前を一人で、」

「私の勝手な判断で、王の貴方を危険な目に合わせる訳にはいかなかった」

こちら側へ歩みを進める空にこれ以上一人で行った理由を詮索されないよう、わざと“王”と呼ぶ。そうすれば、王として扱われるのが苦手な空が嫌がるのを知っているから。

「…っ」

思惑通り空が黙る。足を止め、唇を噛み締めていた。傷付けたのは承知している。けれど、見て見ぬふりをしなければ貴方を守れない。

「もうお休み下さい…陛下」

空を帰そうと私は左手を部屋の方向へ伸ばし、誘導しようとした。私が近付いたその時、隠した右腕を空は見逃さず、不意に掴まれる。その力は決して強くはなかったが、私の動きを封じるには充分だった。右腕の黒布は裂け、赤い液体を吸い込んで変色している。

「雹お前、怪我を…!」

「これは私のではありません」

青褪める空に言い聞かせた。これは本当に私の血ではなく、刃を振り回して反撃を仕掛けてきた者の叫び声と共に浴びた、人の命を奪った印。

「………俺は、お前にとって…一体何だ…?」

聞き逃してしまいそうな程小さな空の声に、心臓の鼓動がどくりと激しく鳴った。

「…仲間、です」

そして貴方は、ずっと眠ったままだった私の人間らしい感情を揺り起こした大切な存在。

「…なら、辛いことはなおさら共に感じたい。俺は雹と全てを分かち合いたい。それが仲間というものじゃないのか…!」

訴えてくる空の悲痛な面持ちは、最も見たくなかったものだ。私と向かい合う目に涙が溜まっていく様に、己の無力さを思い知らされる。

「…どうして」

どうしてまたそんな顔をする?

任務の最中、空はいつも苦しげな表情を浮かべる。成長するにつれ遂行する頻度も内容も酷くなり、恐らく空の本来持つ他人を信じようとする心が悲鳴を上げるのだろう。ならば任務から遠ざければ良いと、空には知らせずに一人で行くことで問題はなくなると思っていた。だが結局、空を更に苦しめていたのは私自身だったのか。

私がこの黒い服を身に纏うのは、貴方の悲しみを増やさない為だったのに。

「……すみません…」

ただ謝ることしかできなかった。紅く濡れた右腕で空を引き寄せ、青い瞳が溢す涙にゆっくりと口づけをした。





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拍手ありがとうございます!

10000hitでmichi様よりリクエストをいただきました、雹×空をやっとこさアップしました。

「甘々」とのリクエストにもかかわらず、ぜんっぜん甘くない感じになっちゃいましたよははは…。最後の一文に甘さを凝縮したということでどうかお許し下さいmichi様!笑
シャングリラ的には甘い方だと思うんですよね…きっと…たぶん。

更新頑張ります!
またのお越しを心よりお待ちしております。

(2011/08/01〜09/01)


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あきゅろす。
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