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美しき生涯編・その1
期間限定拍手/美しき生涯編(福島正則×石田三成)





――…な、んだ……

……これは……水か……


突然口中に入ってきたそれが冷たい水だと分かった時に漸く、気を失っていたことを理解した。自分の意思とは無関係に流し込まれる液体が害はないものだとあらば、咽せることなく激しく渇いていた喉の奥へと送る。だが、潤すにはまだ全然足りなくて、唇に当てられた器を掴もうとその付近に指を伸ばした。

指にぶつかったのは、器の硬い質感とは程遠い、柔らかな感触だ。目を閉じているので正体が分からず、形状を確かめるべく人差し指と中指を撫でるように横へ滑らせる。

「…んっ」

その柔らかなものの縁を指先でなぞると、小さな呻きと共にぴくりと震えて口から離れた。
…声を出したということは…指で触れていたのはまさか…!

目を開けて見えたのは、三成の端正な顔と、水に濡れた赤い唇。

「……三成!お、お前、」

「正則、気がついたか」

気が動転して上手く口が回らない俺と対照的に、落ち着き払った三成の静かな声が陽射しに溢れた城の庭に響く。

俺は三成が苦手だ。
男のくせに細い身体と長い髪をした姿を“上品で華やか”と女人達は称賛するが、この者と時折言葉を交わさねばならない身としては気が鬱ぐ。
三成は一見控えめな人物だと見せかけておいて、魂には誰にも揺るがすことの出来ぬ強い義を内包している。だから、対して目を見つめ合うと、己の弱さや脆さを露呈しまうのではないかと恐ろしくなるのだ。

乱世に生きるには相応しくない美しさに、心を乱される。


「水なら顔にかけるだけで十分だ!ここまでせずとも」

「既に二度ほどかけた」

起き上がれば確かに額から水滴がぽたりと落ちて、真実を知る。しかし、水をかけられても意識が戻らなかった驚きより、屈んだ三成の膝に今まで頭を預けていた驚きの方が勝っていた。
庭に足を投げ出している俺と目線を合わせたまま、三成は話し続ける。

「お主に動く気配が感じられず、飲ませたのだ」

「これくらいのこと、俺にとってはうたた寝をしていたも同然だ。捨て置けばよいものを」

この庭まで何とか身体を引きずって歩いてきたのだが、先程の鍛練での打ち所が悪かった為に気を失った。それを偶然通り掛かった三成に隠そうとして俺は虚勢を張る。

「…されど、某の目の前で倒れられては、捨て置く訳にはいかぬ」

俺を見ながら三成は笑って言った。
その笑みは愚弄するそれでは決してなく、触れた唇の様に柔らかい。


――そうやって笑えば、もっとお前の周りに人が集まるだろうに。


「どうした、もしや酷い怪我をしているのか?」

長い髪が風にふわりとなびくのが目に映り、いつもとは違う思考になってしまっていた自分に衝撃を受けた。

「あちらで手当てを…」

「俺に構うな!」

一刻も早くここから去らねばと立ち上がり、助けてくれた礼もせずに背を向ける。


今振り返ってはいけない、と何故か思っていた。





++++++++++

拍手ありがとうございます!

美しき生涯観劇記念の期間限定拍手お礼です。

北ノ庄城落城前の日常話だと思って下されば有難いです。これで三成は“気を失っている人には水を顔にかけるより、飲ませる方が効率的”だと思ってその後茶々にも飲ませたんだよー、という捏造文でした。

更新頑張ります!

またのお越しを心よりお待ちしております。

(2011/06/07〜09/07)

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あきゅろす。
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