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applauded
トラファルガー編
期間限定拍手/トラファルガー編(ハーディー×ネルソン)





「キャプテン…」

夜が更けていたので遠慮がちにノックしながら、船室のドア越しに話しかけて様子を窺う。すると、いつもはすぐに返してくれるこの部屋の主の声が少し遅れて聞こえてきた。

「…入れ」

「キャプテン!…って、もうおやすみでしたか…!すみません、また明日、」

「構わない」

上機嫌で勢い良く入ってきたその調子のまま慌てて部屋を出ようとするハーディーの言葉をネルソンは遮り、引き留める。

「で、どうしたんだ?」

何か執務に関する用件だろうと踏んだネルソンは寝間着の上にガウンを羽織り、椅子に座った。

「今日の勝利を祝おうと思いまして、スコッチを持ってきました。あー…それだけなんです」

「先程あれだけ飲んだのにまだ足りないのか」

申し訳なさそうにスコッチの瓶と二人分のグラスをテーブルに置いたハーディーを見上げ、ネルソンは呆れた口調で言った。しかし、ハーディーを見つめるまなざしはとてもやわらかいもので、彼は軽く溜め息をついてから言葉を続けた。

「…いいだろう、乾杯しようじゃないか」

思いがけないネルソンの返事にハーディーは安心して笑みを浮かべる。手際良くスコッチを注いだグラスの片方をネルソンに差し出した。

「ああ…ありが…!…うっ」

「ホレイショ!」

グラスを受け取る筈だったネルソンの右手は、呻きと共に傷付いた右目を覆う。ハーディーは咄嗟に近付き、ネルソンの肩に手を置いた。

「右目が痛むのですか?」

「少しだけ、だ」

顔を上げたネルソンの右頬には涙が伝っていた。その筋は流れ続ける涙でなかなか消えようとしない。

「これは困ったな…今日は笑顔で祝うべき日であって、悲しいことなど何もないのだが…」

「目を見せて下さい」

ハーディーは肩に置いていた手でネルソンの頬を包み、傷の具合を確かめた。赤く充血した右目から涙が次々と溢れてくる。

戦いに勝利はしたが、この人は傷を負ったのだ。涙を流して“悲しいことなど何もない”とはっきりと告げるネルソンの姿に胸が締め付けられる。その涙は痛みのせいではなく、心の奥底に眠っているもっと別の……例えどれだけ傷付いても、国の英雄である以上弱味は決して見せないだろう。でも今は、貴方の心が泣いているのが私には分かる。

ゆっくりと瞬きをするネルソンの右のまぶたに、ハーディーはキスをする。それがあまりにも自然な動きだった為に、ネルソンはこの状況を把握出来ずにいた。

「…トマス、どういう…ことだ?」

「あ…今のは…貴方への信頼と…友情を表した故の、行動です」

驚きで大きく目を開けたネルソンを見て、はっとしたハーディーは言葉を慎重に選んでいる感があった。

「もう泣かないで下さい…ほら、笑って」

「…私の副官は、随分と世話焼きな奴だな」

そう言いながら微笑むネルソンは、とても綺麗だった。



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拍手ありがとうございます!

宙組のトラファルガー観劇記念の期間限定拍手お礼です。

ナイルの海戦直後の船の中だと思って読んで下さればありがたいです(笑)

更新頑張ります!

またのお越しを心よりお待ちしております。

(2010/07/13〜09/08)

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