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仮面のロマネスク編
期間限定拍手/仮面のロマネスク編(ダンスニー×ヴァルモン)
早朝、屋敷の前に一台の馬車がとまる。そこから気だるげに降りてきたのは美しい貴族の青年だった。青年が降りると同時に屋敷の扉が開いたということは、ここの主なのであろう。
「お帰りなさいませ、旦那様」
「ああ」
中に入って上着を従僕に渡し、青年はまっすぐ寝室へ向かう。
「これから少し休む」
「かしこまりました」
従僕は片腕に青年の上着を掛け、礼をして奥に消えた。主人の後を追ってあれこれと世話をしないで下がるのは少々怠慢だと思われるかもしれない。しかし、従僕は気が付いたのだ。今日も彼は秘密を持ち帰ってきたことを。
元々、青年は貴族社会のあらゆる観念にあまりとらわれず、むしろ必要な時以外は自由にしていて構わない、とはっきり口にする性格だ。だが、従僕は今日何も命じられなかったのはそのせいではなく、人払いをする為なのだと分かっていた。
青年は寝室の戸を閉めるとクラバットを解き、部屋の鏡を見る。そして磨かれた鏡に映る自分の姿に何かを見つけたらしく、溜め息をついた。
「…二、三日は大人しくしているか」
首のすぐ下に付けられた赤い鬱血痕を指で軽くなぞる。
…まったく、だからあの男は婦人に好かれないのだ。そこそこの権力はあるのに、こうして相手に所有物の証の様に跡を付けたがる。遊びである以上は……いや、昨夜のはこちらの私利の為に誘っただけなのだが、身体に跡を残されるのはやっかいだ。今度会ったら忠告してやろうか。
そんな考え事をしていると、寝室の戸をたたく音がした。青年は鏡を睨み付けたまま「なんだ」と返事をする。
「お休み中、申し訳ございません。突然お客様が…」
普段なら指示しなくても適当な理由を付けて帰す筈なのに、何故か従僕が手こずっていた。
「誰だ、こんな朝早くに」
「ダンスニー様です。旦那様にどうしてもお会いしたいと」
またか。再びついた溜め息がさらに重くなった。セシル嬢との恋の相談にのると一度約束してからというもの、ダンスニーはほぼ毎日訪ねてくる。ああ…世の中はこうもしつこい男ばかりなのか。
「わかった、通しておけ」
「では応接間に、」
「この部屋でいい」
さすがに寝室で会えば、今はまずいと察知してすぐに帰るだろう。手短に済ませるにはいい方法だ。解いたクラバットを直さずに、寝台に最も近い椅子に腰掛けて待つことにした。
コンコン、と小気味良い音が響く。
「おはようございますヴァルモン子爵!」
「…おはよう、ダンスニー君」
朝の陽射しがそのまま人の形になったような笑顔はとても眩しく感じる。彼はまるで、夜を知らない太陽だ。
他人の寝室に意気揚々と入ってきたと思いきや、一瞬で申し訳なさそうな表情に変わる。
「あ、すみません!!まだ支度の最中でしたか…」
「いいや、支度の最中どころか先程帰ってきたばかりだ」
「え……それって、まさか」
「君が何を想像したのかは知らないが、僕はあまり眠っていないんだよ」
申し訳なさそうな顔が今度は赤くなった。
「す、すみません!帰ります!」
「まあ待ちたまえ」
踵を返す彼を呼び止めて向かいの椅子を手で指し、座るよう促した。今にも飛び出していきそうだったが、振り返ってこちらの様子を窺ってくる。頷きながら目で「どうぞ」と合図すると、彼は恐る恐る近付き椅子に座った。そして暫くは俯いて黙っていたが、ばっと顔を上げ手紙を取り出す。
「セシルへの手紙を書いてきました。渡す前にヴァルモン子爵に読んで頂きたいのです!」
向かいの椅子に座っていたのにわざわざ立ち上がり、近くに寄ってきたかと思うと跪いて手紙を両手で握り、ずいっと差し出される。
「では失礼して」
手紙を受け取れば、愛の告白が成功したかのように喜ぶ彼を尻目に封を開け目を通す。長々と続く手紙を読む合間にちらりと見やると、彼は側を離れずにじっとこちらを見つめていた。
「…どうでしょうか…?」
「もっと簡潔に、かつ情熱的に書いた方がいい。表現は美しいがね」
「情熱的、ですか…」
「今すぐにも彼女を手に入れたいのだろう?」
「はい!…でも…」
どうすればいいのかわからない、と顔に書いてあった。…こんなに親身になってやってるんだ、少しくらいからかっても罰はあたらないだろう。
「食べ方を教えて差し上げようか、ダンスニー君?」
「は…?」
「来たまえ」
訳が分かっていないのか腕を引っ張るとすぐに立ち上がり、そのまま寝台の前に連れていっても、上着を脱がせても彼は何も言わなかった。
先に寝台に座ってもう一度腕を引き、自分に覆い被さる体勢に導く。
「ヴァルモン子爵!な、なにを…!」
漸く慌てふためきだした彼を半ば取り押さえる様に左手で肩を掴み、右手は背中に回す。
「目を閉じて、僕をセシルだと思いなさい」
こんな無理難題を押し付けられて、一体どのような反応をするのか興味があった。からかわれてるのが分かって怒るだろうか。それとも…
「…」
何と彼は本当に目を閉じ、ぎこちない手つきで抱き締めてきたのだ。これを本気で実践しようとするなんて、どうやらセシルへの気持ちは生半可なものではないらしい。早く済ませるのは諦めなければ。
「そんな風だとセシルにも緊張が移ってしまう。もっと強く、だが優しく」
「は、はい!」
静かな寝室の中では互いの衣服が擦れ合う音だけが耳に届く。距離が縮まった分、両手を背中に回して抱き締め返すと彼の鼓動が激しくなった気がした。
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拍手ありがとうございます!
宙組観劇記念の期間限定拍手お礼です。
ヴァルモンとダンスニーの掛け合いが面白かったので、その辺を捏造してみました。
更新頑張ります!
またのお越しを心よりお待ちしております。
(2012/02/13〜03/24)
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