other(Fujimi+α)
Einsatz/2
練習が終わり、俺は隣にいる五十嵐に声をかけた。
「おい、先輩。どうしたよ、今日の音。」
急に話しかけられた五十嵐は、チェロを片付けていた体勢そのままで固まった。横顔を見れば、目が大きく開いている。
ほー、やっぱり正解だな。本人も自覚がある、っと。
自らの耳の良さを心の中で褒め称えていると、「くるっ!」って音が聴こえるんじゃないかってくらいのスピードで五十嵐がこっちに顔を向けた。
「な、なんでわかったっすか…!?」
とたんに青ざめながら喋る五十嵐。
「あ?先輩の音を聞き分けるなんざ、俺にとっては朝飯前だ。」
偉そうに言い放つ俺の視界に、一瞬泣きそうな顔の五十嵐が映った。…ような気がした。
「と言うわけでだ。さっさとチェロしまえ。今日飲みに行くぞ。」
「えっ…」
「なんだよ先輩、付き合いわりぃな。」
「や、違いますよ。金がなくってですね…」
五十嵐はいかにも嫌そうな顔をしている。しかし俺もここで退くわけにはいかない。あの音の理由をどうしても知りたい!
…仕方ない。今日はあの「魔法の言葉」を使うか。
「じゃあ今日は俺が特別に『奢って』やるから!な!久しぶりに会ったんだから付き合えよ〜こんなチャンス、めったにないぞっ!!」
「えっ、飯田さんの『奢り』!?そらもう絶対行くっす!!」
ひっかかったな。
俺は隠すことなくニヤリと笑った。
五十嵐もそんな俺を見て気付いたらしく、口をあんぐりと開けている。
「よし決まり。俺は外で待ってるから、早く来いよ。」
また動かなくなった五十嵐を置いて、俺は颯爽と出口へ向かった。
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