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other(Fujimi+α)
雀色時/1(戦国無双 清正+三成)
※3の清正の章をベースにしています





今日は随分と夕陽が眩しい。

夕暮れの空を見上げながらそう感じた清正は僅かな供をつれ、京にいた。

あと半時もすれば宵になる。しかし、何としても今日の内に伏見城へ辿り着きたいと、ひたすら馬を走らせていた。
厳しい状況の中で豊臣の家を守るために大坂城で奮迅した夏を越えてからというもの、清正はまるで己以外の何者かに突き動かされるかの如く奔走していた。現に、合戦のあった大坂城の修復を驚くべき速さで成し遂げた後、休むことなくこうして伏見城に向かっている。

足元の悪い道を急ぎ進めば、やがて城下町へと繋がる大通に抜けた。雀色に包まれたこの通りをまっすぐ行き、遠くに見える門の奥には懐かしい景色が広がることだろう。

清正は右手をあげて後ろに続く者達へ合図を送り、大通で馬をとめた。先程まで最大限の力で走らされていた馬をなだめながら、自らも弾んだ息を整える。

「……」

漸くここまで来れたのだ。
自分を構成する全てのものに戒めとして刻み込んでいた悔恨の情が、今にも溢れだしてしまいそうだった。だがもうすぐ、あともう少しで何かが変わるはず。

この地の空気を吸い込むだけで胸が震えた。しかし身の内を駆け巡るこの感情に支配されてはいけないと、清正は静かに深呼吸する。
大切なものを失う苦しみは必ずどちらかが背負うことになっていた。それ故、遺された清正は5年前のあの日から今もまだ、行き場のない喪失感と共に生きている。そうなることを互いに分かっていながら繋いでいた手を離したのだから、これは当然の報いだ。

暫し沈黙していた清正は深呼吸の後、供へ先に城へ入るよう命じる。すると、周囲にざわめきが起こった。というのも、何があっても殿を護衛するのが家臣らの常であり、一人にするなど有り得ないからである。主の真意が掴めぬまま、どうしたものかと皆立ち止まっていた。

「はっ」

そんな中ただ一人、清正の命に従う者がいた。重臣の飯田直景である。
清正と同い年でまだ若いが加藤家三傑と称され重用されている直景は、直ちに他の家臣へ号令をかけた。その手際の良さに皆、飯田殿は前もって命じられていたのだろうとはっとし、ならばとそれに続く。
城へ向けて走り出した者達を全て見送った直景は、清正の方に振り向き小さく頷いた。少し驚いてこちらを見る清正を本当はこのまま残して去りたくはないのだが、こればかりは仕方のないことだ。
実のところ、直景は事前にこの命を受けていないどころか、皆と同じく困惑していた。けれど、側でずっと支えてきた自分には分かるのだ。京を訪れてから、言葉をかけるのも憚れるほどのただならぬ様子を見せる清正の心の内が。

すべては、5年前に散った、あの人のせいなのだと。







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