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main(Takarazuka)
望郷歌/8





夕刻を迎え、クマソタケルの屋敷に入る為オウスは黄金色、サルメは鉛丹色、サダルは紅紫色の衣を纏う。頭を薄い布とそれを留める冠で飾ると、誰もが女性と信じて疑わない程美しい姿になった。一足早く着替え終わったサルメは集落の娘達と共に、屋敷へ献上する酒瓶を取りに出かけた。

オウスはヤマトヒメから賜った短剣を懐に隠し、緊張した表情を見せていた。この手で人を殺めることになる。指が小さく震えた。しかし父に認めてもらうにはこれしかない。ヤマトの国を守るには――

「オウス」

後ろから、今一番聴きたかった声が自分を呼んだ。少しでも早く顔が見たくてオウスは急いで振り返る。その様子にサダルは不思議そうな顔をしつつ、紅を付けないのか、と尋ねてきた。そう言えばすっかり忘れていた。サダルが差し出す紅を受け取ろうとしたが、触れた指が冷たかったことにオウスの胸が痛んだ。サダルも戦いを前にして緊張しているのだろう。今はここにいないサルメもきっと。大切な仲間も同じ思いでここにいる。自分は決して独りではなく、三人だからこそ立ち向かうことが出来る。そう気付いた途端、幾分が気持ちが和らいだ。
思いを共有することで互いに安心できるのだと感じたオウスは、サダルの不安を取り除こうと、少しばかり手荒ではあるが良い方法を思いついた。


サダルを抱き寄せ、紅で彩られた赤い唇を親指で軽くなぞる。そして赤く染まった親指を、サダルに見せつけながら自分の唇に滑らせた。サダルの顔がみるみる赤くなる。

「ほら、これでいいかい?もっと必要なら…」

オウスが互いの唇を合わせる振りをすると、サダルはすぐに勢い良く離れた。

「こんな時に…何をするんだ」

少し怒ったような口調で、サダルはオウスを睨んだ。予想通りの反応をしてくれたサダルがますます愛しくなる。

「でも緊張が解けただろう?」

屈託のない笑顔で話すオウスにサダルは何かを感じたらしく、はっとした。気付けば二人の中には程よい量の緊張感が残されていただけだった。サダルの存在が、オウスの心を穏やかにしてくれる。サダルにとってもそうであれば良いとオウスは願った。

オウスがふと外に意識を向けると、こちらに近付く足音がした。ちょうどサルメが戻ってきたようだ。

「さあ、行こうか」

オウスはサダルに告げながら外に出た。後少しで夕日が沈む。地平線へと姿を隠す直前に炎の煌めきのように輝いた夕日が、オウスの目に焼き付いた。







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