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main(Takarazuka)
望郷歌/7





ついにクマソの国に辿り着いた。荒涼とした大地に山々が雄々しく連なっており火の神ヒノカグツチの荒々しさを彷彿とさせるが、今は穏やかな青空が一面に広がっていた。夕刻には屋敷に忍び込みクマソタケルと対峙することになる。戦いは好きではない、けれどもスメラミコトの子である以上ヤマトのために為すべきことをしなければ。父の名を汚す訳にはいかないのだ。オウスはそう自分に言い聞かせながら、少し前を歩くサダルの後ろ姿を目で追った。サダルは槍を手に携え、後に続く二人が歩きやすいように足場を選びながら進む。様子を窺う為に時折振り返りオウスとサルメを見るのだが、その表情は堅い。ここ何日かサダルの笑顔がオウスに向けられておらず、原因はオウスがサダルを手に入れようとしたあの夜であることは明らかだった。でも後悔はしていない。サダルに心奪われているのは事実なのだから。


サダルはオウスを避けていた。あの日から、傍にいると心が掻き乱される感覚がする。サダルはそれを嫌がった。オウスのことを決して嫌いになった訳ではないが、何事も無かったように友として接することも出来ずただ黙ってひたすら前を歩いた。このまま感情に任せてオウスの手を取ってしまえたらと何度も考えた。しかし、オウスはヤマトの大切な存在。こんな夢物語を望むなど、なんと愚かであろうか。サダルはこれ程までに何かを強く求めるのは初めてで、変わりつつある自分が怖かった。



身を潜める為に立ち寄った近くの集落で、クマソの屋敷へ姫が連れ去られたと嘆く者達と出会った。これは放っておけないと話を聞くと遥か遠くの国から旅をしてきたらしい。オウスが今夜征伐することを知ると、ならばこれをと美しい衣を次々と取り出し、三人に協力することとなった。


女達から色とりどりの衣が手渡されていく。サダルは自信をすっかり無くし、意気消沈していた。多勢にたった三名で向かうというのに、脆く不安定な気持ちが邪魔をする。絶対に失敗は許されないのに…

「サダル、どうしたんだ」

「オウス…」

数日間心が通った会話らしい会話が無かっただけだったのだが、その姿に懐かしさを覚えたサダルはすがるようにオウスの名を呼んだ。

「サダルはどれを着るんだい?まだ決まっていないのなら、私がサダルに似合う衣を見立てるよ」

「…オウスが、私の」

「ああ。そうだな…サダルには涼しげな色もなかなか捨てがたいが、私はこの色が良いと思う」

そう言いながら、オウスはサダルの肩に一枚の衣をふわりとかけた。サダルの視界に映った色は、紅紫。

「…似合うだろうか」

「私の目を疑うのかい?」

「いや、そういうわけでは、」

「…サダルは、とても綺麗だ」

詫びようとしていたサダルの言葉を遮ったのは、己の頬に触れたオウスの手の感触と真剣な声だった。驚いたサダルがオウスの瞳の中に見たのは、偽りのない強いまなざし。何故かは分からないが、オウスにそう言われるだけで心が落ち着いていく。サダルの舞が好きだと言ってくれたあの時と同じように胸の奥が暖かくなる。

オウスに守られているのだと、大丈夫だと手を差しのべられている気がした。

「…私も、オウスを守るから」

サダルは突然そう告げたが、オウスは全てを理解しているかのように微笑みながら頷いた。






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