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main(Takarazuka)
望郷歌/6





「君たちは本当にいい兄弟だね」

「ああ、サルメはいつもこうして私の背中を押してくれる。…私は甘えてばかりだ。舞だってサルメの方が繊細で美しい」

「サダルはそう思っているのかもしれないが、私はサダルの舞が好きだよ」

「…ありがとう」

サダルは胸に暖かいものが生まれた気がした。その心地よさにふんわり微笑むと、オウスも目を細めて笑った。

「さ、オウス始めよう。と言っても色気を出す練習なんて、思い付かないな」

「なら、私をクマソタケルだと思って舞ってみてくれないか」

「わかった」


部屋の壁に背を預けて座るオウスと正対するように踊る姿勢を取ったサダルは、深い息をはきながら瞳を閉じた。

次にその瞳が開けられた時、先程までの和やかな空気は一瞬にして変わり、甘い花の香りが立ち込められた魅惑的で幻想的な錯覚に陥る。周りの空気さえ掌握するその姿にオウスの背筋がぞくぞくと震えた。


サダルは未知の感覚に襲われた。部屋の光景、と言うより自分を見つめるオウスの姿がはっきりと見えるのだ。何かに突き動かされているのではなく、サダルは自分の意志を持って舞っている。サルメの方が優れた舞手であるとサダルが思っていたのはまさにこのせいで、自らが舞っているのではなく恐らく自分の中のアメノウズメの記憶が蘇ってサダルの身体を動かしているのだろうとずっと思ってきた。己の力など無きに等しいと。でも今は違う。今はただ、迫るクマソ征伐の為でもその練習でもなく、目の前のオウスを誘惑したいと…我がものにしたいと…

自然と伸ばされたサダルの右腕をオウスは引き寄せた。サダルは糸が切れた操り人形のごとく崩れ、オウスの腕の中に抱き留められた。

「…あ」

「サダル」

少し荒い呼吸をしているサダルの頬に触れる。

「今、何を考えながら舞っていたんだ?」

「…オウスの、ことを」

「私の、どんな?」

「こんなことは初めてで…いつもは幾重にも薄い膜がかかっていて、ぼんやりとしていた。だけど今日はそこから抜け出して自分で舞えたんだ。自分の意志で、オウスを望んだんだ!……あ…」

興奮気味に話していたサダルは、己の言葉に顔を赤くさせて黙った。

「確かに、」

「え…?」

「確かに先程の表情は、以前宴で見たものとは違ったよ。今夜のは生き生きとしていて、それでいてひどく扇情的で」

感情に急かされたオウスの腕が逃がすまいとサダルの腰にまわった。細い肩に流れるサダルの美しい黒髪の束を掬い上げて口づけ、そのまま衣の襟を緩めて白い首筋に触れる。サダルは抵抗する様子も見せず、オウスを受け入れた。サダルの唇から漏れる吐息がオウスの心を強く揺さぶる。
触れていた手を首から顎へと滑らせ、サダルの揺れる瞳を覗き込む。

「…サダルをもっと知りたい」

オウスはそのままサダルに口づけようとした。オウスの強い波にのまれるようにサダルも目を伏せたが、何かを思いだしたのか瞬時に目を開け、口づけを拒んだ。少し遠慮がちに、両腕でオウスの胸を押す。

「オウス…だめだ…」

「何故」

「きっと私たちは熱に浮かされただけだ。少し頭を冷やせば、これは間違っていると……さあ、オウスはもう休んで。私は不審な者が来ないように外で見張っているから」

オウスから離れ、サダルは乱れた息を整えようと必死だった。ふらりと立ち上がり、そのままオウスの顔も見ずに外へ出ていった。

一人取り残されたオウスは、先程のサダルの舞を思い返した。美しさや妖艶な雰囲気は変わらなかったが、以前とは違う…何か確固たる意志があり、オウスに告げようとしているように感じた。だからオウスはサダルの腕を引き、聞いたのだ。

「この想いに偽りなどないのに…」

誰もいなくなった部屋でオウスが呟いた。







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あきゅろす。
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