main(Takarazuka)
望郷歌/5
「オウスに教えることなんて何もないな…なあ、サルメ」
「ああ、これだけの舞を見せつけられたらな」
「二人とも…あれほどの舞手が何を言うんだ」
クマソの国へ向かう旅路の途中、本当に舞の稽古が行われたが、初めから完成度の高いオウスの舞を披露されては助言も何もあったものではない。だがしかしこれで終わり、と言ってもオウスは納得しないだろう。困ったサダルは数回目の稽古でサルメを呼び、オウスの舞を見てもらうことにした。サダルがサルメに毎日と言っていい程オウスの話をしていたので分かっていたが、やはりサルメが見ても既に出来上がっているのは明らかだった。なのにオウスは輝いた目で教えを請うのだ。どうしたものかとサルメは隣を見やったが、横のサダルは眉間にしわを寄せて考え込んでしまっているので、仕方なく助け船を出した。
「そうだな…敢えて言うなら色気かな」
「色気?」
「クマソタケルを誘惑して油断させるんだったら、もっと妖しくなきゃいけないだろうな」
「そうか…」
「でもオウス大丈夫だ。これならうってつけの…」
「私には無理だ」
オウスとサルメのやりとりを黙って聞いていたサダルがピシャリと言い放った。サダルの意外な言葉にオウスとサルメは思わず目を見合わせた。恐らく二人の脳裏には“あんなに妖艶なのに?”と同時に思い浮かんだのだろう。ここまで無意識だと、呆れを通り越して滑稽ですらある。
「そういうことはサルメの方が適任だ。私は…」
「あっははは!」
これ以上我慢が出来なかったのか、サルメは笑いだした。
「サダル、それ冗談か?とにかくオウスの舞の師匠はサダルなんだから、弟子にはきちんと教えること!」
「…ああ、だが」
「あーもう!暗い顔は終わりだ!さあさあ早くちゃちゃっとやってさっさと寝ないと明日も早いんだからな!私は先に休む!」
一気に捲し立てたサルメはさっとオウスに近付き、小さい声で話しかけた。
「あれは無自覚らしいが、私はサダルの方が適任だと思う。私が傍にいると気にするだろうから、先に休むよ。すまないなオウス」
「いや、わかったよ。こちらこそ無理を言ってるんだ。ありがとう」
「じゃあな。おやすみオウス、サダル」
ニコリと笑い、サルメは寝所へ入っていった。
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