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main(Takarazuka)
望郷歌/10





宴は時が進むにつれ酒に酔い潰れる者が増え、クマソの男達は広間の至る所で気を失うように倒れていった。その中でも僅かに残った者は女に見惚れ、注がれるままに酒を飲み干していく。

酌をしているサダルの腕を一人の男が強く掴み、意味あり気な視線を送る。

「どうされましたか」

サダルはその意図を察して妖しく微笑みながら答えた。ついにこの時が来た。ここからはさらに慎重に振る舞わなければならない。この男さえ潰れてしまえば、姫君を助けに行ける。

「今宵は…」

男はサダルを強引に引き寄せ、衣の上から肩や足を撫で回しながら囁く。オウスに触れられた時とはまるで違い、嫌悪感しか無かったがこれに堪えなければ。

「…ええ。ではあちらの奥の部屋へ参りませんか」

サダルは姫君が消えた奥の方を指さしながら、男に身体を寄り添わせた。男は気を良くしておぼつかない足取りで立ち上がり、サダルを奥へと連れていく。奥は部屋がいくつかあったが、幸いなことに姫君を監視する者は誰もいないようだ。サダルはその中の一つに押し込まれる。薄暗い部屋の中で、煽るように色気を含ませて佇むサダルを抱き締めようと男は腕を延ばしたが、強い力で払いのけられた。何事かと思うのも束の間、男は腹部に衝撃を受け、崩れ落ちた。自分が蹴り飛ばした為に床で失神している男を、サダルは無表情で見下ろした。

サダルが部屋を出るとサルメが駆け寄ってきた。どうやらサルメも男達をうまくかわしたようだ。

「サダル、大丈夫か」

「ああ、最後の一人だった」

「姫達はここの近くにいるようだ。さあ…」

「待ってくれ」

サダルはサルメの言葉を遮った。サルメは振り向いてサダルを見たが、俯いたまま動かない。

「どうしたんだ」

「私はオウスの元へ行く」

サダルは胸騒ぎがした。クマソタケルの兄弟は、サルメやサダルが相手をした者達とは比べ物にならない強さと精神力を持っているはずだ。いくらオウスと言えども一人で戦うのは厳しいだろう。そして何よりも、歌で告げられたオウスの気持ちを抱えたまま離れるのは嫌だった。

「…もし駄目だ、と言ってもサダルは行くのだろう?」

少しばかりの沈黙を置いて、サルメはそう言いながら苦笑した。サルメはまるで大切な宝物を手放すかのような心境だった。サルメとサダルは生まれてからずっと一緒で、どんなことも二人で乗り越え分かち合ってきた。しかし、サダルを変えたのは他でもないオウスなのだ。長い旅路の中で三人は強い絆で結ばれ、それはきっとこの先も揺るぐことはない。サルメは二人の事を愛している。だからサダルの背中を押す決心をした。

「覚悟はあるのか」

真剣な表情でサルメはサダルに問いかける。サダルはどきりとした。覚悟、とはクマソタケルとの戦いのことであろうか。それともオウスを受けいれることに対しての…。もしかしたらサルメは全て分かっていて、そう問いかけているのかもしれないとサダルは感じた。

「私は門の前で待っている。必ず二人で戻ることを約束してくれ」

サダルの返事を待たずにサルメは言った。そのままサダルは広間へ、サルメはさらに奥の部屋へと走りだした。二人はオウスが無事であるように願った。







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